元ダンジョンマスターは戦いに疲れたので、平和な村ライフを楽しみます

すー

第1話:ダンジョン攻略、そして転生


「やった! ダンジョンマスターを倒したぞ!」


 ダンジョン攻略とは成せば戦士として箔がつく。 おまけに何百年と在り続けたダンジョンであれば歴史に名を残すだろう。


 おめでとうは言わない。


 なぜなら俺は彼らに殺されたダンジョンマスターなのだから。


 彼らの歓声を聞きながら、俺の心は虚しさで一杯だった。

 そもそもダンジョンとは世界のエネルギーを調整する役目があり、つまりダンジョンマスターとは世界に、人間に利益をもたらす存在だ。


 それなのにモンスターを扱うから、人が死ぬ場所だからか目の敵にされ、こちらから攻撃をしなくても彼らは俺を殺しに何年も何十年もダンジョンにやってくるのだ。


(俺は何のためにダンジョンマスターなんてやってたんだろうな)


 神に言われて仕事をしていただけだ。

 誰かに感謝されたくてやっているわけではない、見返りだって求めていない。 しかしいくらなんでもこの扱いは理不尽だろう。


「長い間よくやってくれた」


 魂になって神の元へ帰ると、神は労ってくれた。


「さて次の職場だが何か要望はあるかな?」


(神よ、私は知見を広げたい)


(世界を知りたい、人を知りたい)


(故に今回は人の子に転生したく思います)


 神は感動に震えながら言った。


「ブラボー! 素晴らしい! 君のような熱い魂を私はとても好ましく思うよ! 前代未聞だがその願い聞き届けよう! 君なら人間であっても素晴らしいダンジョンを創ってくれるさ!」


 俺は知っていた、神が熱いことを。


 俺は知っていた、神は現実に直接手出しをしないことを。


 だから俺は心でほくそ笑みながら転生の光に包まれた。


「おぎゃー! おぎゃー!」


(世界の歪み? ダンジョン? そんなの知ったことか! 俺は自由だああああ!)


 仕事は疲れたし、戦いもうんざりだ。 ここらで一休み、平和な人生を過ごさせてもらおうじゃないか。


ーーーー


ーー


ーー


 転生してしばらくは魔力操作を練習したり、言葉を覚えたりして過ごした。


 そして十年の時が過ぎた。


「お前、村長やるか?」


 僕が暮らしているのは年貢を納めた残りはほとんど自家消費するような小さな村だ。


 名目上村長を任されている我が父が、ふとそんなことを言ってきた。


「いやいや、僕はいいよ。 そういうのって兄さんが継ぐもんでしょ?」

「あいつは冒険者になるんだと」


 父が渋い顔で言った。

 我が家は両親と男二人兄弟の四人家族だ。 村の長とはいえ、貴族みたいな暮らしはできず他の村人と変わらず畑を耕す普通の農民である。


「まあまあまだ若いし、もうちょっと待ってあげなよ。 僕は適当にやってるからさ」

「そう……だな。 お前はホントに爺さんみたいな子供だなあ」


 若者が村を出たがるのはよくあることだ。 そしてそんな若者が都会で挫折して帰ってくることもまたよくあることなのだ。


 兄さんには悪いけど、兄さんは戦士としての才能はあんま感じない。 やる時はやるけど、怖がりだし。


「じゃ、畑行ってくるよ」


 それに村暮らしは好きだけど、村長をやるほどこの村が好きってわけでもないしね。


「ちょっと待て! 誕生日だし、欲しいものあるか?」


 誕生日なんていつもご飯のおかずが一品増えるくらいなのに珍しく父が言った。


「そっか、十歳は特別だもんね」


 この世界では十歳は節目としてお祝いする風習があるのだ。 成人は十五歳だが、十歳からは今までのように遊んでばかりは許されなくなる。


「んー、魔石が欲しいかな。 大きさはなんでも良いよ。 あとは町に行ってみたい」

「おお、そうか! 分かった!」


 十年間はダンジョンとは無縁の暮らしをしていた。 これからも本来のダンジョンマスターのように行動するつもりはない。


 村暮らしは平和だが、確かに娯楽は少ない。 故に若者は村を出ていく。 しかし僕にはダンジョンがある。


 仕事としてダンジョンを造るのは嫌だけど、自分のためだけに自由に造るならば、きっといい暇潰しになるだろう。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る