第3話:貴族がやってきた


「こここの度は度は……あーうーえーっと、へへへ」


 品のよいオジサンと少女といかつい完全装備の兵士を前に父が愛想笑いを浮かべた。


 そしてなぜか僕も一緒に連れてこられたが、下手に口を出すことも憚られたので一緒になって愛想笑いを浮かべるしかない。


「慣れぬ言葉は不要だ。 村の様子を聞かせてくれればいい」


 品のよいオジサンはそう言って父を連れて行った。


 さて、ここで僕はどうするべきか。

 目の前の令嬢をもてなすべきか。 それとも父のフォローをするべきか。


 できれば貴族なんてイレギュラーに関わるのはゴメンだ。


「ねえ、そこのあなた!」

「はい、なんでしょうか?」


 しかし興味津々といった様子の目の前の少女が、ただで離してくれるわけもなかった。


「この村を案内しなさい!」


(うわ、だるー)


 面倒この上ないが、想定していたことではある。


 お目付け役だろう執事が申し訳なさそうな雰囲気であることが、せめてもの救いだろうか。


「はい、喜んで!」


 まあいいか、案内なんてすぐに終わる。 悲しいがこの村は小さく、何の特産もないのだから。



「こちらが村の広場です」

「私、知ってる! 収穫の時期になると豊作を感謝して踊って歌って神に祈りを捧げるのよね!」

「いえ、この村では収穫祭はありませんね」


「こちらが用水路です」

「私、今度こそ知ってる! ここでウナギを取って蒲焼きで食べるのがご馳走なんでしょう?」

「いえ、魚類の類いはいませんね。 よくわからない虫くらい?」


「こちらが畑です」

「何を育てているのかしら?」

「麦です」

「他には?」

「麦です」


 案内は散歩程度の時間で終わった。

 せっかく案内したというのにご令嬢はなぜか膨れっ面だ。


「なーんにもないじゃない!」

「それが良いとこです」

「つまんないつまんないつまんなーい!」


 対応に困って執事を見ると、執事はため息を吐いた。


「お嬢さま、村とはそういうものです」

「可笑しいわよ! 占いにはちゃんと出てたもの! 私が間違ってるっていうの?!」


 執事の説得空しく、僕を睨み付けて彼女は言った。


「あなた何か隠しているんでしょう? 貴族に嘘を吐くなんて! 私が父様に言って年貢を増やすことだってできるんだからね!」


 絵に描いたような横暴な貴族がそこにいた。 年は僕と同じくらいに見えるのに、相当甘やかされて育ったようだ。


「えーと?」

「……なくもないかと」


 そんな無茶苦茶通るのかと、執事に視線で問えば渋い表情で頷きが返ってきて空を仰ぎたくなった。


 これ以上年貢を増やされたら僕たちは食べていけない。 生きるか死ぬか、村の存亡が少しだけ掛かっていると思うと頭を抱えたくなった。


「……わかりました。 ですが少し協力が必要です」


 ならば腹を括るしかない。

 こんな時に機転が効くほど僕は器用じゃない。 僕にはダンジョンしかないんだ。


「最後に僕の秘密基地へご案内いたします」


 ご令嬢の瞳が輝きだしたことに安堵しつつ、僕は自分の家へと、ダンジョンの入り口へと二人を連れて向かうのだった。



 二人を連れて家に入ると、真っ白になった父が恨めしそうにこちらを見てきたが見えてない振りをして自室へ向かう。


『ダンジョン創造』


 歩きながらダンジョンの二階層を創っていく。 入り口は自分の部屋に設定して、扉を付ける。 中は四畳半ほどの広さで、中は何もない四方が土壁の空間だ。


「こちらへどうぞ」

「何も無さそうね……その扉かしら?」

「そうです、しかし扉はロックされてまして、魔力を注がないと開かない仕組みなんです」

「へえ?ほんとかしら?」


 訝しげにしつつも、興味が勝ったのかご令嬢は扉に手を当てた。 そして執事も含めて三人でありったけの魔力を注ぐ。


(これだけ魔力があれば充分)


「ありがとうございます。 扉のロックが開きました」


 扉を開きながらダンジョンを創る。


ーー創造するのは青い空と白い浜。


ーー波の音が聞こえてくる小さなコテージ。


 誰にも邪魔されない、プライベートビーチダンジョンだ。


 


 

 



 

 






 

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