今日の天気はダイヤモンド
大隅 スミヲ
今日の天気はダイヤモンド
「今なら、もう一個ついて――」
「――ンスでは、いま流行りの」
「黒酢を飲めば健康な毎日――」
「――ドロイチンのお陰で膝が」
「ダイヤモンドがセットに――」
深夜、特に見る番組もなくテレビをザッピングしていると、奇妙な番組に出会った。
ほとんどのチャンネルがショッピング番組となっている中で、その番組だけは画面の真ん中に男がひとり立っていて、何かを伝えていた。
ショッピング番組は、出演者の声が
そのため、男がなにを喋っているのかはわからなかった。
男がいるのは暗闇の中だった。
暗闇の中に男がぽつんと立っていて、何かを喋っている。
見たことのない男だった。
タレントなのか、俳優なのか、芸人なのかもわからない。
ただ男は悲壮感に溢れた顔で、何かを喋っていた。
音量をあげようとリモコンを操作するが、間違えてチャンネルのボタンを押してしまい、番組が切り替わってしまった。
画面に現れたのは、ショッピングチャンネルだった。
もう何年もバラエティ番組から姿を消している初老のタレントが、大げさなリアクションで商品を褒めちぎっている。
慌てて元のチャンネルに戻そうとリモコンを操作するが、その番組は終わってしまったのか、何処のチャンネルに合わせても、その番組は放送されていなかった。
あの番組は何だったのだろうか。
深夜にザッピングをしていると、時おりこのような番組と出くわすことがある。
見たこともないタレントが出演していたり、ただひたすら地蔵を映すだけの番組が流れていたりと、誰が何のために放送しているのかわからない番組があるのだ。
こういった番組は、大体放送時間が短かったり、ゲリラ的に放送されていたりするため、番組ガイドでは見つけることが出来なかったりする。
ネット上にはこういった番組ばかりを趣味で集めている人間もいて、動画投稿サイトやSNSに投稿していたりしていた。
スマホを使って、色々と探してみたものの、結局はあの番組にはたどりつけなかった。
さっきの番組は何だったのだろうか。
妙なモヤモヤだけが残った。
翌日も深夜にテレビのザッピングをして、あの番組を探してみた。
しかし、放送されているのはショッピング番組ばかりであり、あの番組をみつけることはできなかった。
どうすれば、あの番組をもう一度見ることが出来るのだろうか。
さらに翌日、翌々日と続けて深夜番組をザッピングした。
やはり、あの番組を見つけることはできなかった。
昼間は、働かないわけにはいかなかった。
眠いのを我慢しながら、一生懸命働いた。
深夜になれば、ザッピングしてあの番組を探す日が続いた。
あの番組はどこへ行ってしまったのだろうか。
昼間、重要な会議があった。
眠くて、眠くて、仕方がなかった。
気づいた時には、眠っていた。
もはや、気絶といってもいいかもしれない。
同僚からは「休んだほうがいい」「顔色が悪いぞ」「目が真っ赤じゃないか」といったことを言われた。
家に帰れば、ザッピングが待っている。
あの番組を見つけなければならないのだ。
今夜もチャンネルを次々に変えながら深夜放送をチェックしていく。
「今日の天気は――――」
「――ダイヤモンド」
気づいた時、私は病院のベッドの上だった。
腕には点滴の管が通されている。
夜中らしく、部屋の中は薄暗かった。
ナースコールのボタンをみつけ、ボタンを押した。
「どうかしましたか?」
枕元に内蔵されているスピーカーから女性看護師の声が聞こえてくる。
「すいません、テレビが見たいんですが……」
今日の天気はダイヤモンド 大隅 スミヲ @smee
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます