05話
「つい考えさせてくださいと答えてしまったのです」
「それは駄目だね、その気がないならはっきり言わないと」
地雷を踏みぬいてくれた少女もやっと落ち着いてくれた、依然として真っすぐすぎるが力強い。
確かに高橋の言う通りで受け入れる気がないのであればちゃんと断るべきだ、保留にしたことをいい方にしか捉えない人間だって世の中にはいる。
まあ、告白をした身として期待をしてしまうことが悪いというわけではないのが難しいところではあった。
「身長が高くて普通にしているだけなのに怖くて……」
「城君の相手をしているのに?」
「城さんは別……基本的には違います」
なんだいまの間は……って、こう答えるしかないよな、だって完全に別だということなら「ひっ」なんて反応になることはないし。
高身長イケメンではなくてすまない、でも、先程はともかく自分から近づいているわけではないから許してほしい。
「あれ、掃部さん?」
「ま、また会いましたね」
「こんなこともあるんだね」
んー普段佐藤を見ているのもあってなんか中途半端だ。
高身長というわけでもイケメンというわけでもない、見る人間によって意見が変わってきそうな感じが強い。
とはいえ、これぐらいでも俺が偉そうに言えるレベルではないことは確かで、黙って見ておくことしかできなかった。
「あれ、もしかして変なのに絡まれていたりする?」
「い、いえ」
違うとも言いづらいな、だって帰らせねえ! と目の前に飛び出たわけだからな。
「はっきり言った方がいいよ、そうすれば俺、動くよ?」
「ふぅ、そんなことは一切ありません」
「ふーん、でも、佐藤君とかにしておきなよ、敢えて――」
そしてここでも何故か飛び出ようとした少女がいて慌てて止めることになった。
落ち着けと言っても聞いてくれない、腕を引っ張って止めているからどんな顔をしているのかは分からないが困ってしまう。
「離してっ」
「落ち着け、別になにも言っていないだろ」
「なんでっ、なんで……」
今更そんなことで怒ったところで仕方がない、あと事実だ。
敢えて変なことをしている的なことを言いたかったのだろうが俺も同じような考えになるときがあるからやはり偉そうには言えない。
ぶさいく専なんだと、いつかイケメンが連れ去るのだと考えていてもだ、で、一緒にいられる度に期待をしてしまうわけだ。
つか、今回はちゃんと俺の力でなんとかできたということが嬉しかった。
鍛えているのに女子の力に負けていたらそれが一番傷つくからな、と。
「あれ、なんか微妙な感じ?」
「まああれだ」
「うん?」
「感じたことを全て口にしない方がいいときもあるってことじゃないか、事実だとしてもな」
掃部がどう感じているのかは分からないが一応、関われているわけだし? その相手にマイナス寄りの発言をぶつけたら、なあ。
俺と関わってくれている三人が悪く言われる可能性は低いものの、悪く言ってくる奴がいたらぶっ飛ばしたくなる。
「結局それって君が言われたくないだけだろ?」
「いや? 別に一対一ならいくらでも言ってくれればいいよ」
振り向かせたいなら世辞を、とまではいかなくても黙っておくぐらいがいい。
仮に俺が掃部の友達ではなかったとしても誰かの悪口を平気で吐くような人間の側には落ち着いていられないだろう。
「ふーん」
「言いたいのはそれだけだよ」
「なるほどね、女の子二人の前で格好つけたくなったんだね」
って、おい、なにも分かってくれていないじゃないか。
それこそ誰にとってもデメリットしかない時間だったため、なんとかするためにまたぶら下がっておくことにする。
これで俺にとってはメリット……というか無駄な時間ではなくなったが、男子君はまだ帰ろうとしない、高橋も掃部も黙ったままというそれで。
「……です」
「なにか言った?」
「あなたなんて嫌いです」
「「え」」
「それではこれで、さようなら」
あ、帰ってしまった。
結局、本命がいなくなればどうでもよくなったのか「俺も帰ろ」と言って男子君は違う方向に歩いて行った。
「高橋、俺達も帰ろうぜ」
「……嫌」
「嫌って帰らなければならないだろ?」
明るいだけでもう十八時を過ぎているのだ、ここが夏の危険なところだ。
油断をしているとあっという間に夜になる、大丈夫と無根拠な言葉で帰ることを先延ばしにしていると親に怒られかねない。
この公園に寄ることになっているのは自惚れでもなんでもなく俺のせいで、叱られるのが嫌だからいまから変えていくのだ。
自分の親にならともかく他者の親に叱られるのは心臓に悪いから避けたかった。
「城君の態度が嫌」
「そう言われてもな、あ、まあ、漏らしておいて言うのもあれだけど逆効果というか、さっきみたいに〇〇と言われたくないだろと返されてしまうだけだから。あと、あれぐらいで弱るような人間じゃない、車に一部を轢かれたってぴんぴんしている人間だぞ」
「でも、掃部さんがはっきり言ってくれた点はすっきりしたよ」
「いいのかどうかは分からないけどな」
「一対一のときじゃなくてよかったよ」
俺らの前だったからこそ気になるのだが。
少なくとも夏休みが始まるまではちゃんと見ておこうと決めた。
「特になかったな」
「なにが?」
「いや、終業式も問題なく終わったな、と」
とはいえ、学校を出てからどうなっているのかは知らない。
部活がある以上、一緒に帰ることができないし、追ったら俺が一番の問題児ということになるから無理だ。
「ああ、なにかあっても逆に嫌だろ」
「じゃ、また夏休み後に会おう」
残念ながら今日は部活がないため、大人しく帰ろうと思う。
作業みたいになってしまっているのもあるから今日は公園に行かない。
「おいおい、誘ってくれよ」
「じゃあ一緒に勉強をやろうぜ、そうしてくれたら佐藤のしたいことにも付き合うよ」
「言ったな? はは、覚悟しておけよ?」
ただ、スマホがあるわけではないからどうするのだろうか……って、用があるなら家に来るだろうから問題もないか。
少し違った点は解散になってから四人で集まったことだった。
「せっかく集まれたのに暗いな、勝悟のせいか?」
「あーないとも言えない」
「明日になる前になんとかした方がいい、ほら、話し合え」
「おい佐藤、逃げたりするなよ?」
「いや、俺がいると進まなさそうだから帰るよ」
自分から距離を作っているよな、それで後から文句を言われても嫌だぞ……。
というか、あの件が解決したと思ったら今度は別の件で二人が暗くなるというコンボは最悪だ。
「城さん、ありがとうございました」
「え?」
悪いとも思っていないのに「すみません」と謝罪をされるよりはいいのだろうか?
ちなみにどうでもいい情報だが、相手がなにかを自分のためにしてくれてもついついありがとうではなくすみませんと前の俺は謝ってしまっていた。
俺は謝られたくない派だから彼女のそれで微妙な気持ちになることはない、が、礼を言われるのも微妙になることもあるのだと分かった。
言ってしまえば頼まれてもいないのに勝手に動いただけの話、感謝されるようなことはできていない。
「気にしてくれていましたよね?」
「なんか俺のせいで変なことになったからな、あ、そこに他意はないから勘違いしないでくれよ? あの男子がどうするのかが気になっていただけだよ」
もうしないというかできない、部活か家かの日々になる。
「はい、分かっています」
「じゃ、終わりな、高橋もそれでいいだろ? 早くあそこに隠れている佐藤のところに――おい高橋」
「……あの男の子が言っていたように本当だとしても格好つけているよね」
「直接見た高橋がそう言うならそうかもな、じゃあそれでいいから早く行こう」
くそ、見た目がよかったらこんなことを言われたりしないのに。
気にしていない風、強がっているだけにしか見えないのだろうか? それならどれだけ不公平なのかと不満を吐きたくなる。
演じているというわけでもないのにそれを格好つけている判定をされてしまったらどうしようもない、それこそ、離れてほしくないのにそれならどこかに行けばいいんじゃねと言うしかなくなる。
「解決していなくないか?」
「俺が格好つけているという結論が出た」
「はは、だけど勝悟は昔からそのままだからな」
「じゃあ俺はずっと格好つけているということかよ、恥ずかしい人間だな」
悪いことをしているつもりはないがなんか恥ずかしくなってきた。
やっぱり公園に寄って発散させてから帰ろうと決める、一日空くと崩れてしまいそうで怖くなったのもある。
「いやいや、誰かのために動けることはいいことだろ、春だって分かっているよ」
「そうかぁ? 後ろを見てみろよ」
「うーん……多分、大丈夫だ」
「適当だなぁ」
ルートが違うから公園近くで別れて一人で向かった。
いいさ、夏休みが始まれば自然と距離ができて格好つけることもなくなるだろう。
向こうだって無駄な時間になる可能性が下がるのだ、七月二十一日で一旦終わりにしてくれた学校に感謝しかない。
「あの、夏休みに遊びたい……です」
「部活は基本的に午前までしかないからな、余裕だろ」
「い、一応言っておきますけど、城さんと、ですからね?」
「そうなのか、意外だな」
いちいち面倒くせえ……、だけど見た目的にまず佐藤や高橋と、という形にしておかなければならないのだ。
「どこに行きたいんだ?」
「城さんはどこか行きたいところはありますか?」
「そうだな、海の近くを歩いたりしたいな」
友達とお喋りをしながら海沿いの道を歩けたらなんてよく考えていた。
真夏にしたら一回で本当のところが分かってもうやらなくなるだろうが、同性も異性でもどちらでもいいから友達がいたらとな。
「掃部は?」
「お祭り……とかですかね」
「祭りに? 祭りが好きなんだな」
「毎年、必ず行っていますから」
「ただ、その場合は四人の方がいいな、俺はずっと参加していなかったからどういうテンションでいればいいのか分からないんだよ」
一人で行けるような勇気はなかった、あとはなんにも影響力がないとしても暗い空気を持ち込んで水を差すようなことをしたくなかったのもある――ま、一人云々が大きすぎて言い訳みたいなものだが。
「私は最初からそのつもりでしたけど」
「はは、悪い」
穴があったら入りたいとはこういうときに使うのかと学んだ。
気にしていないように見えるかもしれないがいますぐに彼女の目の前から消え去りたかった。
「はは、それは自爆ってやつだな」
「だよな。でもよ、掃部の言い方も悪いんだ」
「勝手に掃部さんのせいにするなよ」
くそ、にやにやしやがって、その内では「ざまあみろ」と笑っているに違いない――なんてのはいいとして、約束通りこうして一緒に宿題というやつをやれていることに安心していた。
結局、蓋を開けてみたら夏休みが終了するまで会いませんでした、なんてことになる可能性が高かったからそういうことになる。
「つか、佐藤は誰か好きな存在とかいないのか? できることならするけど」
「好きな存在か、いるよ」
「お、誰だよっ?」
「勝悟がそのテンションでいる限りは言わないぞ」
「じゃあずっと聞けないってことか、残念だ」
当たり前と言えば当たり前だが四人で行くことに拘った掃部が動いてくれたりしないだろうか? 誰が動こうとできることならするつもりだからちゃんと言ってほしい。
大事な情報を吐ける程、信用できていないということなら仕方がないものの、どうせ来てくれるならという考えでいる。
「それこそ勝悟は?」
「嫌味か、仮に俺があの二人のどちらかを好きになっても振られて終わるだけだろ」
昨日、自滅をした時点で掃部の方は駄目だし、踏み込もうとしたら高橋だっていまのままではなくなってしまう。
でも、いまのままなら来てくれるということなら現状維持を望む、進んで壊すなんてもったいなさすぎる。
「そうか? 復活してからずっと春なんかはずっと勝悟のところに行っているだろ」
「なるほどなっ、はは、露骨だな」
「事実だろ、掃部さんだって出会ってからはずっと行っているだろ」
「お、おいおい、二人を同時に好きになるのはイケメンでもちょっとな」
それとも中にはそういう関係になれればいいと考える女子がいるのだろうか、男子側はよくても女子組の精神的にはよくない時間になりそうだ。
「勝悟がイケメン……?」
「佐藤の話だよっ」
「落ち着け、冗談だよ冗談。あとさ、勝悟はよく格好いいとかイケメンとか言ってくれるけど正直、差はそんなにないだろ」
「誰と誰が? 俺とか言ったらぶっ飛ばすぞ」
「ここで勝悟以外の男子のことを出す意味あるか?」
やばい、夏の暑さが友達を壊してしまった、それかもしくはその好きな存在といつまで経っても上手くいかなくて自棄になっている、というところか。
いますぐにどうこうできるようなことではないから夏休みの宿題というやつに集中していく、習字だの絵を描くだの色々とあるがまずは国語からだ。
「誰か来た――れ、連打か」
「ちょっと出てくる」
ここは彼の家だからどうせ高橋とかだろうと予想をする、というか、連打をするような人間が他にもいたらかなり怖い、借金か!? とか余計な心配をしなければならなくなるからちゃんと連れてきてほしい。
「やっほー」
「お邪魔します」
「なるほどな」
これはやられたな、二人きりが嫌なら最初から呼んでおけよ。
自爆したばかりの俺と掃部を同じ空間に召喚しただけでもそれがよく分かる、ただ、高橋がいてくれてよかった。
だって掃部だけだったらそれこそ変な妄想が捗ってしまうからな、だからまあ責めるようなことはしない。
「高橋か掃部かどっちでもいいけどここに座れよ、俺はここでやるから」
「な、なんでそんなに端っこで?」
「狭いところが落ち着くんだ、基本は陰キャだからな」
狭いところが落ち着くと口に出したことでこの前の猫の存在が頭に浮かんできた。
元気にやっているだろうか? また車道である方角を見つめてのんびりしていないだろうかと心配になる。
車通りが少ないあの場所だからこその油断ということならもっと車が通った方がいいがそうするとあの公園に行きづらくなるという面倒くささが出てくるわけで、人間が住みやすい場所になれば動物にとっては住みづらい場所になるのだということがよく分かった。
「じゃあ私もここでやるから掃部さんがローテーブルでやりなよ」
「分かりました」
「飲み物を持ってきた――うわっ、危ないぞ勝悟」
「俺の陣地に足を踏み入れるな」
「俺の部屋だぞ……」
自由にしてくれたのだ、だったらこちらにも自由にする権利がある。
「部屋に女子を誘うとか露骨、ですね?」
「リビングは好きじゃないんだよ」
「いちいち言い訳をしたいお年頃ってやつだよな」
さっさと決めた分を終わらせてあの公園に行こう。
こうして集まっているが今日だって部活はあった、となれば、公園に行かなければいけないことは確定している。
で、二十分もしない内に終わらせることができたから荷物をまとめ、挨拶を済ませて佐藤家をあとにした。
いやほら、邪魔をするのも申し訳ないしな、余計なのがいたら気になるだろうしな。
「城君って掃部さんと知樹をくっつけようとしているの?」
「なんでだ……」
ある意味、一人になれないというのは幸せなことなのだろうか。
「こそこそ逃げるからでしょ、それでどうなの?」
「別にそんなつもりはない、ただ俺が残る理由もなかっただけだよ。だってあれは佐藤が俺と二人きりは嫌だったってことだろ? 直接言われなくても分かるよ」
「そんなことはないと思うけどなぁ、知樹のお家に行ったのだってたまたまだし」
「なあ、嘘をつく必要はないだろ、約束をしていようとそれはどうでもいいんだよ」
そんなたまたまが何回もあってたまるか。
高橋単体ならともかく掃部がいたのにそれはありえない、それこそ女子二人で佐藤の家にと迷いなく選択することがあれだ。
だったらと迷惑をかけるのも違うから出てきたのに彼女がそれを無駄にした、言ってしまえば彼女の方が佐藤と掃部をくっつけようとしているようにしか見えない。
「それこそそんなことで嘘をついても仕方がないでしょ」
「はぁ、まああれだ、高橋はまだやっていないだろうから宿題をやれよ」
「やるよ、そのために持ってきたからね」
「あと、水分をちゃんと摂ってくれ、弱ってほしくない」
弱ったときに冷静に対応できる自信がないからこういうことを言う。
高校生でスマホを持っている状態なら迷いなく佐藤を呼ぶところだが、他は知らないが少なくとも俺は持っていないから無理だ。
「大丈夫、こうして水筒で冷たいお茶を持ってきているから」
「ならいいけどさ」
かっ飛ばせなかったときみたいに微妙な気分のまま懸垂なんかをすることになった。
ただ、そこまで長引くこともなかったのはよかった。
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