10話
「すやぁ」
「いきなり来たと思ったらすぐにこれか」
「ちょっと疲れちゃってね……」
なんでも、夏穂がちくちく言葉で刺してきて疲れているらしい。
もう学校が始まるというのに大丈夫なのだろうか……って、逆に学校が始まってしまった方がやることが多くて問題もなくなる気がする。
夏穂だってずっと春と一緒にいられるわけではない、みんなクラスが違うから意識して集まらない限りは会えるのは部活のときだけだ。
「くっついていてもいい?」
「嫌じゃないならいいぞ」
「それならさせてもらうとして、ふぅ、なんか落ち着くよ」
「自宅の方が休めるんじゃないのか?」
「でも、勝悟君がいないから」
そりゃまあ家族というわけではないのだから当たり前だ、また、関係が変わったとしても毎日来られたら窮屈というかやめたくなりそうだ。
このままでいられるようにと努力をするつもりでいるがいつ終わるのかなんて誰も分からない、本当のところが分かって彼女が別れる判断をする可能性は結構高い。
ここはぶさいくだろうがイケメンだろうが感じる心や考えられる脳があれば変わらないだろう。
「……やっぱり勝悟君の方から抱きしめてほしい」
「やるぞ?」
「……夏穂ちゃんに好きだったと言われたとき、どう感じた?」
「変わらないぞ」
ちゃんと言ってくれなければなにも変わらないし、矛盾しているが言われていても変わらなかった。
助けられたようで助けられていない、あれは所謂、マッチポンプというやつだ。
された側の夏穂が違うと言っても信じられない、俺がこういう考え方でいる以上はそういうことになる。
「ほんとに……?」
「少し待ってもらったのは夏穂がいたからじゃないぞ、俺がそうする人間だってだけだ」
「そっか」
少し安心できたのか体から力が抜けた、正直、あのままだったら俺が抱きしめたせいで固まっているようにしか考えられなかったからありがたい。
「勝悟君が急にいなくなって寂しかった、なのに行く勇気がなかったんだ。でも、どんな状態だろうと前に進むよね、だから中学生になっても変わらないと思っていたんだけど……これまでも普通に登校をしていましたよという風に勝悟君が急に現れてさ、しかもなんかいきなり可愛い……とか言ってくるし……」
「実際そうだったからな」
「あのときの私は上手くやれていたよね、知樹のことを出して気にしていないふりをさ」
「その後も同じだったぞ、自分の魅力が分かっていないかのような感じでな」
「普通だよ普通」
普通ね、自慢げにしていなくても絡まれるときは絡まれるから気を付けた方がいいがな。
「だけど途中からは駄目だったなぁ、もう余裕なんか少しもないんだもん」
「そうか? 夏穂がいてもそれこそ普通だったけど」
「違うよ、それでもなんとかやれたのは勝悟君がちゃんとこっちを優先してくれていたからだけどね」
「当たり前だろ、普通だよ普通」
「はは、真似をしないでよ」
せっかく一緒にいられているのに自ら離れようとするわけがない、メンタル面なんかでも変わったのにそんなことをするようなら馬鹿としか言えない。
「好き」
「ああ、俺もだ」
ただ、変な雰囲気になってきて慌てて変えた。
彼女の方はずっとそのままで困ったのだった。
147作品目 Nora @rianora_
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