08話
「春、起きろ」
「ん……なんで知樹が、あれ?」
「残念ながら知樹はいないぞ」
頼まれて受け入れたから仕方がない、ただ、ここで知樹のことがすぐに出てくる辺りが幼馴染というかなんというか、本当によかったのかと聞きたくなってしまう一件だった。
まあ、色々と変えたところでいまから変えられても困るから言わないが。
ちなみに知樹から夜中に家電に電話がかかってきたときは驚いたね、たまたまリビングにいたからよかったものの、そうでもなかったらどうしていたのだろうか。
好きな人とは実は母だったのではないかと妄想が捗ってしまって寝られなかったのは内緒にしてほしい。
「あ、そういえば城君のお家に泊まっていたんだよね」
「ああ、おはよう」
「あれ……ということは寝顔を見られて!?」
「悪い、ただいつまでも起きてこないから心配になったんだよ」
もっとも、まだ六時半とかそれぐらいだがな。
泊まればどうかと口にしたのは俺だが部屋で寝るとか変なことを言いだしてきたからリビングに逃げたのもあったのだ。
「一旦帰って歯を磨いてくるっ」
「付いて行っていいか? いつものあれをやりたくてさ」
「う、うん、だけどあんまり近づかないでね」
「別に大丈夫だよ」
とはいえ、俺だって歯を磨いていない状態で友といたくないから邪魔をすることはしないようにした。
「そういえば今日からまた部活があるね」
「そうそう、だから部活前にやっておきたいんだ」
ここが小学生の頃とは違う点だ、遊んでばかりもいられない。
でも、こうして誰かといられていると少し邪魔に――い、いや、どうせ中学生の間しかやらないのだから集中してやっておかなければ損か。
引退するときにもう少し真面目にやっておけばよかったなどと後悔しないようにしたい。
「物好きだねぇ、いまから活動をするというのに」
「もうこれが日課みたいなものだからな、俺が雨の日にだってやることを春は分かっているだろ?」
「は、春……」
「仲良くなったし、夏穂に頼まれたのもあるからな」
名前呼びに変えてから夏穂のことを出せば問題もないと考えていた、が、甘かった。
「は……ということは夏穂ちゃんが先ってこと?」
「あーまあ……そういうことになるな」
「このおばか! もう知らない!」
走って行ってしまったので目的通り、一人公園に行って懸垂をする。
時計がなくて時間が分からないからある程度の回数で切り上げて家へ、朝ご飯を食べてから練習着に着替えて中学に向かう。
「おはようございます」
「夏穂か、おはよう」
「春さんを知りませんか? ずっと待っているのに来ないのです」
「あー多分、もうちょっとしたら来るぞ――ほら、あそこ」
「ふふ、朝から大慌て、という感じですね」
な、なんだこの笑みはと震えている間に春が着いて「おはようございます」と挨拶をしていた。
「はぁ……はぁ……やっと着いた」
「時間的に余裕があっただろ? なんでそんなに疲れているんだ?」
なんならいまの時間だって早いぐらいだ、だからこうして校門のところでゆっくり喋ることができるわけだ。
「あー……城君にむかついてお菓子を食べていたらつい、ね」
「まだ名前で呼んでいないのですか?」
「俺は呼んでいるぞ」
恥ずかしいとかそういうのは一切なかったが、直前にアピールをしてきてくれていなかったらできていないことだった。
「じょ、城君呼びに慣れすぎてちょっと気恥ずかしくて」
「私、春さんに勝てそうです」
「えっ、ちょ……」
ああ、悪魔とか言わなければよかった、もう笑みがそっち方向にしか見えない。
巻き込まれても嫌だから道具を持って早く行こうとしたら「勝悟さん、途中まで一緒に行きましょう」と付いてきてひえぇとなった。
ただ、余計なことを言わなければ面倒くさいことにならないことを分かっているため、黙っているだけで怖い時間は終わった。
そこから先は変わらない、走る、ボールを投げる捕る、打つ、普段通りの活動となった。
「あれ、待ってくれていたのか」
「うん、だってあんまり話せていないから」
「ありがとな。じゃあ、帰るか」
いつも逆というか俺が先に公園に行っていて彼女が寄るというのが常のことだったから中々に新鮮だった。
なんかいいな、春はいてくれているだけで役立ってくれているな。
「ふぅ、順番なんか本当はどうでもよかったんだよ、城君が、勝悟君が名前で呼んでくれたというだけでね。なのにつまらないことを気にして一人で帰って、それであんまり話せていないからとか言っていたら笑われちゃうよね」
「俺が言うのも変だけど相手のことが好きならそういうものじゃないのか」
中途半端な態度は自分にとっても相手にとってもよくない、だから同じようにはしない。
「でも、要求しすぎても勝悟君が疲れちゃうからね」
「俺にできることならするよ」
「夜に会いたいって言っても会ってくれるの?」
「場所によるけど、ある程度なら」
「ならあの公園がいいね、一人で行っても危なくない」
いや、距離が短くてもどこで変なことに巻き込まれるのか分からない、そのため、その場合は毎回彼女の家に行こうと決めた。
スマホなんかがなくても別れる前に、あ。
「その場合は別れなければいいんじゃないか? 例えばいまみたいに部活が終わったら満足するところまで俺が付き合えば解決だ。そうすれば送って帰るだけだし、春的にも問題はないだろ?」
「その場合だと勝悟君の負担が……」
「気にするなよ、春が求めてくれて感謝しているんだ、だったらなにか返さなければならないだろ」
「そっか、ありがとう」
「なんで春が礼を言うんだよ、ありがとな」
あとは佐藤から結局、春が好きだった、なんてことを言われなければ平和なまま終わる。
だが、まだ帰ってこないから確かめることもできないのはもやもやするところだ。
「公園に着いたな、今日も頑張るぞ――って、くっついてきてどうした?」
「重りだよ」
「そうか、じゃあそのままでいてくれ」
人間的に軽くてもこれまでとは全く違った、全く回数を稼げなかった。
本来、何回もできるようなら負荷も足りないということで間違っていたのかもしれない、あとはちゃんと使える筋肉を鍛えたかった。
「夏穂は付き合ってくれそうにないから春が懸垂仲間になってくれないか?」
「私はちょっと……それにここまで全く触れられないのも問題なんだけど……」
「ん? ああ、普通に軽かったぞ、ただ単純に俺の力不足だってことだ」
自分が満足できればいいとは分かっていてもそれだけでは駄目だって考えてしまう自分もいる、チートの能力以外で誰かの役に立ちたいから引っかかる。
ただ、今回の場合はなくても焦ってしまえば怪我に繋がる、効果が下がるというわけで少しずつ変えていくしかないのだ。
「ち、違うよ、私が言いたいのはその……一応、女の子がくっついてきたわけなんだからなにかコメントとかないのかな……って」
「んー……あ、夏に運動をしたはずなのにいい匂いだな」
「うん、そういうところが勝悟君のいいところで悪いところだよ」
こちらも適当にはしたくないからやめてちゃんと見る。
「好きだ」
「え、なんでこの流れで……?」
「夏休み中に返事をするって言っただろ、俺的にはこのタイミングがベストだった」
部活の帰りにというところも学生らしくていいのではないだろうか。
が、彼女にとっては違ったのか数分の間、うんともいいとも答えてくれなくて初めて冷や汗が出た。
「あ、ありがとっ」
「お、おう」
「それじゃあ今日はこれで帰るねっ、また明日っ」
う、受け入れられた……のか?
自信を持って受け入れられたのだと言うことができない状態だったため、馬鹿みたいに一人で公園で突っ立つことになったのだった。
ちなみに帰ってきた知樹にこの話をしたら「腹が痛い!」と笑ってくれたから攻撃をしておいた。
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