epilogue

 


 ___あれから何日が過ぎただろうか。

 


 

 身体の自由を奪われ、抵抗する事もできない。薄暗い部屋の中の、更に暗いクローゼットの中に、俺は監禁されている。



 誰かの助けを待つ事も考えたが、生憎俺には友達がいない。

 

 誰も助けに来てくれない。

 ここから一歩も動けない。


 暗くて生臭い匂いがする。ザリガニの匂いだ。

 

 亮子は、俺に一日一回の食事を与える。それも、毎日ラザニアだ。俺の好物だからだろう。

 何故かそのラザニアはいつも真っ赤で、少し錆びた味がする。

 

 彼女はいつも


「私のラザニアですよ」


と言ってスプーンで掬い俺に向ける。

 気持ち悪さより空腹が勝って、俺はそれを口に入れる。

 はぁ、はぁと息を荒くして、亮子はそんな俺を見つめていた。

 

 そういえば、ここに監禁されて一日目の事だったか、常に漂う腐敗臭に耐えられず吐いてしまった事があった。亮子はそれを見て


「あらあら…吐いちゃうなんて可愛い。すぐに回収するわね」


と言って俺の口を拭き、俺の吐いたソレをタッパーに入れた。


 本当に、狂ってる。


 クローゼットから中から引きずり出されて、俺は全身の服を脱がされる。

 

 亮子は笑って言った。


「これから貴方はデッサンされるのよ」


 デッサン? 俺がデッサンされる……? 

 亮子はおもむろにイーゼルとキャンバス、筆、それからカミソリを取り出してきて俺に言った。


「私と貴方は一つになるの。この絵の中でね」


 そうして亮子はこちらへ歩み寄り、俺の手首を持ち上げ、カミソリを当てた。


「ははは」


 彼女は勢いよく俺の手首を切った。

 痛い……痛い痛い……、怖い……ただ恐怖と痛みが俺を襲う。

 そして亮子は今度はそのカミソリで自分の手首を切る。流れる鮮血が白い肌を伝う。

 亮子は、ポタポタと垂れる俺の血と自分の血を混ぜ、筆に絡めた。


「これが、私たちの絵の具よ」


 そして彼女はキャンバスの方へ移動し、その筆で絵を描き始めた。



 

「あはは…」



 

 亮子の笑う声だけが、この部屋に響いた。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

デッサン人形 Chan茶菓 @ChanChakaChan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ