普通が崩れる瞬間を見逃すな、弱さ×強さの新境地
- ★★★ Excellent!!!
牛河かさね様の作品「ほのかたらう僕らは普通になれない」は、まるで静かな田舎の風景の中に未来の息吹が紛れ込んだような作品でした。引きこもり生活を続ける林本永遠と、謎めいた金髪少女・瑠璃乃。二人の奇妙な同居生活は、どこか温かい絵本をめくるような感覚を覚えさせますが、その裏には不穏な未来社会の影がちらつきます。
読んでいる最中、私は自分が永遠の家の隣人になったかのように、壁越しに彼らの会話を盗み聞きしている気分になりました。時には笑い、時には涙しながら、彼らの物語がどんどん私を引き込んでいきました。そして、瑠璃乃の正体が明かされる場面では、心臓が一瞬止まるような感覚に襲われました。それは私自身の「普通」という固定観念が揺さぶられた瞬間でもありました。
この物語の中で、「弱さ」と「強さ」という対極の存在が、奇跡のように響き合いながら共存する様子は、SFでありながらも普遍的な人間ドラマを感じさせます。未来社会の冷たさと二人の温かな関係性。そのコントラストが胸を締めつけ、読み終えた後も、永遠と瑠璃乃の選択を自分なりに妄想してしまう、そんな余韻を残してくれる一作でした。