宝石を噛む
フカ
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「まあた飴噛んどる」
ハジのギザギザを開けてすぐ、舌で数回転がしただけの飴玉に歯を立て、そう言われた。
よそから来た人がよくこうなる妙なイントネーションで、わたしは包を持ったままで飴を噛み続ける。
「いや、飴は噛むものよ」
「もったいないなァ」
「そうか?これが美味しいのよ」
カッティングされた宝石を模した半透明の赤い、イチゴ味の砂糖のかたまり。噛ると、鉱石のように規則正しく欠けていく。欠けた砂糖を奥歯ですりつぶす。心地が良い。
「お菓子なんて噛んで楽しむものしょだいたい、チョコも、ポテチもグミもあの噛みごたえが欲しくて買うのよ。食感を買ってる」
「へ〜一個ちょうだい」
「聞け」
武瑠は青いやつを手に取る。
わたしのベッドにおった武瑠がわたしのかいたあぐらのうえのジェムストーン・キャンディの外装袋へ手を入れて、頭が目の前に来るから髪からいい匂いがした。
頭がちいせえ。同い年なのになんなのな、都会の人間はみな子どものような頭蓋をしていて腹が立つほどうらやましい。別の県は別の国のようだよな。海辺の国には上の学校は、大学は沢山あるだろうに。
つむじを軸に完璧な流れをしている、武瑠の髪を梳くと変わらずずいぶんと育ちの良さそう、そんな手触りだった。
赤、青、ミドリ、次つぎ宝石を噛み潰しながら、いつまでも飴の包を開けず眺める武瑠を眺める。背後のススけた石油ストーブがBGMみたいに灯油を燃やす。なのに寒い。仕様がない。化石燃料が燃えとるのに、この部屋の隅では息が白い。
こんなくそのような田舎にはいない、高い頭身は別の生き物のようで、下に何枚も着るためのデカいパーカーから伸びる首は顔の面積とおなじぐらいで、顔の横幅は長い長い脚が、穿いとるスウェットボアパンツのわたりよりちいさい。なんだこれは。武瑠がわたしの恋人なのか、なんなのかになってから1年半ほど経つけれどいまだにわたしは武瑠を人と思っていない気はする。
「きれいねコレ」
武瑠が言う。
「そうね」お前がね、その意味を込めて返した。
「本物みたいね」笑ってしまう。「そうね」
「宝石みたいね。」
君の骨は宝石みたいよ。
人がね、そんなきれいな造りになるなんて神秘的ね。
ごうと風が吹いて戸を揺らす。立ち上がり、障子を開けると吹雪が見えた。
「わあまた雪搔かんじゃいかん」
「手伝うよ~」
「当たり前よ。やれやれ」
ふ。息をつき、ストーブのうえに干した手袋と帽子をむしる。
十二畳を見回して、ベッドのわきに投げてあるダウンを拾うと武瑠に腕を掴まれた。
なに、口に出す前に、口から口に飴がわたされる。
ごろついた青いやつは何故かシトラスの味だった。
「なんなん」
「噛むんでしょ」
「あァ阿呆?」
あは、武瑠がわざわざ息を掠れて笑う。
「阿呆だわ」
「雪搔きするんでしょ」
「ん青いやつウマいな」
「だよね、あ〜やっぱあ返して」
「返さん。噛むわ」
思い切り奥歯で噛み潰す。破片が口でしゃらしゃらする。
宝石を噛む フカ @ivyivory
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