番外編 私生活覗き見アプリ、リリシティ!


 あたしはリリに憧れている。


 だってリリは、なんだって出来るんだから。


「最近ね、暇な時間どうやって潰そうかなって思って、生活を覗き見する的なアプリをインストールしたの」


 リリにアプリを見せる。


「ほら、何人かいるでしょ? この子達が住人で……ほら、寝始めた。で、こっちは勉強してると思いきや……あ、サボりだした。こういう時はこのボタンを押して……ね。暇つぶしのつもりがハマっちゃって……」

「ココ。そんなアプリで暇を潰してるなら、私の写真眺めてた方がよっぽど有意義な時間だと思うよ」

「リリの写真眺めたって仕方ないでしょ? 本物がここにいるのに」

「……っ!」


 リリがあたしの言葉で心臓を押さえた。うん? どうかした? 頬が赤いよ。リリはどんな顔してても可愛いね。羨まShi。


「リリもやろうよ。通信で遊ぶことも出来るんだよ」

「ココが私のことを好いてくれるのは本当に嬉しいけど……こんなアプリに負けるのは許せない!!」


 リリが倉庫に籠もった。


「アプリなんかに負けるもんか!」

「リリ、お風呂の時間だよー?」

「絶対ココを取り戻してみせる!」


 というわけで、リリが開発した。目をキラキラさせて、あたしのスマートフォンにアプリを入れた。


「ココ、やってみて!」

(リリが開発したならきっと良いものだろうな。わー。リリ、わくわくしてて可愛いなぁー)


 あたしがアプリを起動させると、目を点にさせた。そこには、リリがいたのだ。


「リリ、これって」


 あたしははっとした。家の中にあたしが入ってきた。


「あたしが……いるだと!?」

「この二人は……結婚してるの」

「 結 婚 」

「このマークがパートナーっていう印で」

「なるほど……」

「それで、どっちかをタップしてみて」


 あたしはリリをタップした。あたしのキャラクターがリリに近づき、いちゃつき始めた。


「ベッドをタップしてみて……?」


 あたしはベッドをタップした。いちゃついた二人がベッドに潜り……大人なことをし始めた。


『オーイエス! エクスタシー!!』

「誰かモザイク処理をお願いします!!」

「ココ……いっぱい……生活を覗き見してね……。将来の……イメージシチュエーションみたいなものだから……」

「ふんぬっ!」


 ぼくらのアンインストール。


「あっ! せっかくのアプリが!」

「リリ! こんなの人前で遊べないよ!」

「人前でゲームなんかやらないでしょ! ココ!」

「うぐっ! こいつ、痛いところをついてきやがる……! けどっ! なんかグラフィックとかデザインも生々しいし!」

「ココが元々やってたアプリを参考に作ったんだけど!?」

「なんで一日で作れるの! 天才すぎる!」

「このアプリには、私とココの理想の世界が詰まってるんだよ?」


 リリがぽっ♡と頬を赤らめた。


「私がしてほしいこととかも……反映されてるかもしれないよ……?」

(リリがしてほしいこと!?)


 あたしははっとした。つまり、このゲームをやれば、リリのご機嫌取りが可能だということ!


「これで泣かされずに済む!!!」

「いっぱい遊んでね?」

「いっぱい遊びます!!」


 というわけで、その日からあたしはゲームを真剣にやることにした。

 家を改築させ、ペットを飼い、庭を作り、家具を増やし、二人が生活しやすいように神の手として手伝った。


 5分に一回夜が来る度、必ず二人はベッドで大人なことをしていた。


(この大人なことをする機能いる……?)


 朝起きると、二人は必ずキスをし、リリが部屋で仕事をし、あたしは掃除や洗濯をしていた。


(いや、働けよ!)


 リリが部屋から出てくると、あたしが抱きついて出迎え、そして大人なキスをし合いベッドにGO。イチャイチャしながら夜ご飯を食べ、お風呂に入り、ベッドに入れば再び大人なことを始める。


(あたしは一体何をやらされているんだろう……)

「ココ」


 ニュッ、とリリが隣に座ってきた。


「ご飯出来たよ?」

「んむー……」

「ゲーム楽しい?」

「楽しいというか……」


 あたしはリリを見た。


「リアルすぎない?」

「え、そうかなぁ?」

「寝室があるのに、二人が寝るところは地下倉庫だし」

「まあねぇ」

「リリが仕事してるのも」

「まあねぇ」

「あたしが無能すぎるのとか」

「うふふっ!」

「もー! リアルすぎて笑えないよ! せめて、あたしのことはもっと有能にしてよ!」

「あはは! ココらしくてこっちの方がいいよ!」

「やだよ! こんなの!」


 あたしはむっとむくれて、笑うリリを見た。


「こんなゲームを作ったのは、あたしを自覚させるためですか?」

「そうだとしたらどうしますか?」

「そうやってすぐ図星つく。リリの言いたいことわかるよ」

「なーに?」

「あたしが全部悪い」


 スマートフォンをぽいと投げれば、リリがクスッと笑って、白い手であたしの腕に触れた。


「私は……ココを愛してるだけだよ?」

「あたしは……耐えられなかった」

「ふふっ」

「リリがあたしのものを奪うから」

「結果出せなかったのはココでしょう?」

「リリがあたしの目の前にいたから」

「ココと出会えて私は嬉しい」

「リリは優しいから」

「ココはお馬鹿さんだから」

「だからあたしは」


 あたしは、


「リリに憧れた」

「ココ、早く目を覚まして?」


 リリは優しく微笑む。


「ココの声が聞きたい」

「早く」

「ココ」







「起きて」











 重たい瞼が開けられる。


 そこには現実が待っている。


 そうだ。

 今見ていたのは、全て夢だ。

 平和な日々。

 不安も心配もない、

 明るい日常。

 星のようにキラキラ輝いて、

 笑顔のリリが側にいる。


 そうだよね。


 そんなわけないよね。





 壊したのは、あたしだ。






「おはよう、ココ」


 裸のリリがあたしに微笑む。


「気分はどう?」


 体が重い。

 夢の中のあたしの体は、とても軽かったのに。


「ココ、寝すぎるのも駄目だよ。ココが外に出てくれないと、私の居場所がバレちゃうでしょう?」


 あたしはゆっくりと起き上がる。服は着ていなかった。


「ココ、今日もバレないように頑張ろうね」


 あたしは倉庫に置かれたテレビの電源をつけた。ニュースが流れる。


『宇南山・デボルト・リリさんの行方がわからなくなってから、10日が過ぎようとしています』


 キャリケース。しみついたバッド。あたしは横目で振り返る。ベッドには、笑みを浮かべたリリがいる。


「ココ」


 あたしはドアノブをひねった。





「胸を張ってね」






 あたしは倉庫から出ていき――ドアを閉めた。






 番外編 END

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