番外編 最強のオムライス


 あたしはリリに憧れている。


 出会った頃から、リリはあたしの【星】だった。キラキラ光る金髪。青い目。カナダ人と日本人のハーフのリリ。ああ、リリは、今日も最高に可愛い! キュートプリティ! ついついその横顔と綺麗な髪の毛に見惚れて、手が止まってしまいそうになる!


「リリ、あの……そろそろ夕飯の時間だけど……食べたいものある?」

「ココ」

「え? あ、……んふふ!」

「ふふふ」

「あたしは食べれないでしょ?」

「んー」

「何でも作るから、遠慮せず食べたいもの言って?」

「じゃー……」


 リリが笑顔で答えた。


「ココの作るオムライスが食べたいかな?」

「オムライス。うん。わかった!」


 リリが食べるんだもん。美味しいの作らないと!

 あたしは早速冷蔵庫を開けて……気づいてしまった。


「玉子が切れてる!!!!!」


 ショックという名の稲妻があたしに落ちる。


(リリが……オムライスが食べたいって……言ってくれたのに!)


 こんなところで終われない!

 あたしは鞄を持った。


「スーパー行ってくる!」

「居留守番してるねー」

「うん! 誰が来ても絶対出ちゃ駄目だよ! 行ってきます!」


 外に出られないリリの代わりに、あたしは近所のスーパーまで走った。そして、ショックを受けることになる。


「玉子が……売り切れてる!!」


 あたしは総合スーパーマーケットまで走った。


「すいません! 玉子ありませんか!?」

「あっ、ちょ、しょ、少々、お待ちください。……イーンカム失礼しまーす。た、た、玉子って今……あー……でしたね。了解です。……ごめんなさい。い、い、いーま、えっと、その、その、その、在庫が、切れてるようでして……」

「えっ! そうなんですか!? でも、まだ夕方ですよね!?」

「最近、あの、あの、あの……物価が上がってる関係で……」

「そんな!」

「で、で、でも、あの、あちらにお、おっきな、建物、あの、中にス、ス、スーパーもあるので、ぜひ、そちらにも、い、ってみてください!」

「わかりました! ありがとうございます!」

「ボンジュール! 間抜けちゃん! 会いに来ましたよー!」

「ひぃ!」


 お姉さんに言われたスーパーに走ってみる。しかし、あたしはまたまたショックを受ける。


「玉子がない!!」

「店員さん、玉子は?」

「売り切れてしまって……」

(どうしよう。このままだと、リリに美味しいオムライスを作ってあげられない!)


 一体どうしたらいいのか、あたしは頭を抱えた。


「どうしよう……」

「ふっ! お困りですか!? お嬢さん!」

「はっ! なんか動きがすばしっこい紳士の方! 実は、かくかくしかじかで困っているんです……」

「なるほど。大切な人のために玉子が欲しいのか……。それは確かに……譲れない!」


 紳士が上げた口角から見える歯がきらっと光った。


「お嬢さん、最強の玉子を……手に入れたくないかい?」

「さ、最強の……玉子……!?」


 あたしは唾を飲み込んだ。ごくり。


「少し走ることになる。きっと辛い旅になるだろう。それでも……来るかい?」

「そこに……最強の玉子があるのなら……!」


 全ては、憧れのリリのために!


「あたし、走ります!」

「よっしゃ! ついてくるんだ!」

「はい!!」


 夕日に向かって、あたしと紳士が道を走った。崖を上り、川を渡り、滝に打たれ、険しい獣道を潜り抜け、あたしと紳士はそこに辿り着いた。



(*'ω'*)石狩ぼくじょう(*'ω'*)



「玉子かい? 好きなだけ持っていきな」

「ありがとうございます!」

「どうやら、旅はここまでのようだ。ふっ! 楽しかったよ! ココちゃん!」

「色々とお世話になりました! さようなら!」

「家までトラックで送ってあげるべさ。乗っていき」


 牧場の人に送ってもらい、夜には帰ってくることが出来た。そう。最強の玉子を持って!


「ただいま! リリ!」


 ――暗い家の中で――スマートフォンを弄ってたリリに睨まれた。


「遅くなってごめんね!」

「いや……ただいまの前に……ココ……三日間……どこにいたの……?」

「それがね、リリ! どこもかしこも玉子が売り切れてたから、牧場まで行ってたの!」

「牧……場……? は……? 何それ……」

「でもね、最強の玉子が手に入ったの!」


 あたしはキッチンに立った。


「いざ! レッツ・料理!」


 そのオムライスは、食べたことがないくらい美味しく出来上がっていた。


「リリ……! 調味料をさほど入れてないのに……玉子が美味しい!」

「玉子美味しいのはいいんだけどさ……下手したら、私、餓死してたよ?」

「ごめんね。リリ。でも……」


 あたしはスプーンを口に入れた。


「リリには……美味しいの……食べてもらいたかったから……」

「……もう」


 リリが頬を赤らめさせて、笑みを浮かべた。


「今回だけだからね」

「……えへへ……」

「通販サイトでアイス買ったから、一緒に食べよ?」

「え、いいの? ……やった」

「それにしても……」


 リリが冷蔵庫に振り返った。あの中には、玉子がぎっしり詰められている。


「……しばらくは……玉子料理だね」

「美味しいの作るからね!」

「三日間留守はやめてね? 次やったら本当に怒るからね?」

「うん! リリがそう言うなら、これから気を付ける!」


 あたしとリリが美味しいオムライスを味わうのだった。

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