今夜もエルフがやって来る

 先日つまらない調べものをするためにつまらない検索をしていたら女性には縁のない漫画が出てきてチラ見すると、それがまさに「なろう系」を原作にした漫画だった。
 かわいいエルフが大変なことになっている。
 転移して俺TUEEEになった主人公の若者がエルフ(略)


 そこはそっとしといて?


 そこはほら、触れないで?


 無粋なことを云うつもりはない。
 そっと画面を閉じた。
「ご主人さま♡」
 健気に尽くしてくれるかわいいエルフを転移して俺TUEEEになった主人公の若者が(略)
 ……なぜエルフ。

 読んでしまった理由は、つい最近、まさにカクヨムで「運営にBANされた」と嘆いていた少年だか青年が、この漫画と同じ構想をもっていたからだ。原案でも提供したのかなと想うほどそっくりだった。
 自分の部屋があって渡り廊下で繋がった大部屋に美少女がたくさんいるらしい。
 俺の妄想を見てくれよとばかりに、その方は手書きの図まで「近況ノート」に投稿されていた。
 BANされるに決まってるだろうが自重しろと全員が泣いた。


 ほら、そのへんにしておこう!


 多分「なろう系」とは、少年だか青年だかおっさんなんだか知らないが、男性の多くがもつ同じ夢なのだ。
 それもタブーなしだ。
 その夢の中ではかわいいエルフがそっと忍び寄って来る。
「ご主人さま♡ウフ」って。
 なんかヒラヒラって近寄ってきてくれるらしい。
 あなたは勇者さまですか?
 そうですわたしが勇者です。

 かわいいエルフは時にぷんぷん怒り、時に勇者をうるんだ眼で見つめ、時ににっこり笑って洗濯ものをしてくれる。
 同じ役に小学生の女児をもってくるよりは許されてしまう便利なアイテムとしてエルフは勇者にくっついている。
 ぴらぴらした衣から太ももを出して、「勇者さま♡」と尽くしてくれる。
「いや相手がエルフでもちゃんとそこに愛はありますから」
 ……うん、あるんだろうと想う。
 詳しくは書かないがある場面で転移した勇者はエルフ相手に男の責任を明言していた。かえってビックリした。
 子どもが出来たら面倒みるから!


 タブーのない「なろう系」のメイン読者は男性で、女性にはあまり受けがよくない。したがって「なろう小説」に対しては外からぼんやりしたイメージしかもっていない。タイトル長いなとか。
 これは単なる棲み分けだ。
 女性が好む恋愛小説の王道パターンが、「平凡な女の子がハイスペックな御曹司に溺愛される」のと同じように、男性の好む王道パターンが、「無条件で美少女からモテモテになり勇者になる」だから、それぞれ好みのものを追っているだけだ。
 ヒロインが高嶺の花の美少女よりもエルフになってしまった理由は、高慢ちきな人間の女たちとは違い出逢った最初から「勇者さま♡」と懐いてくれるからなのかな? と推測してみるけれど、作者に訊いたことがないのでこれも分からない。


 >コミック「賭博黙示録カイジ」の中で、カイジと対立する金融業者帝愛カンパニーの幹部トネガワが「世間はおまえらの母親ではない」という名言を残した。

 >だが、なろう系主人公にとって、異世界は母親そのものである。


 この「異世界」を「エルフ」に置き換えるとちょうどよいのだろう。
 主人公にとって都合がよくて、なんでも受け止めてくれる優しいエルフ。生身の女ほどめんどくさくなく、かといって人形でもないエルフはなろう系小説を彩る優秀なマスコットとして男性の無意識的欲求の一端を実に見事に体現している。
「ご主人さま♡ウフ」
 エルフは確かにかわいい。
 自称勇者がエルフを大切にするならば別になにも云うことはない。
 もうすぐ春だし、エルフを花見にでも連れて行ってあげて欲しいな勇者。

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