第八話①『招待』
『嶺歌! 試験お疲れ様でございますの! ねえ
互いのテストが無事に終わり、嶺歌は早速形南と通話をしていた。そんな時、形南から唐突にお誘いを受ける。
「楽しそうやりたい! でもあれなの家って超有名でしょ!? 一般人を招き入れるのって有りなの?」
高円寺院財閥といえばとてつもなく大きな規模の家であり、テレビでも何度か外観を目にした事があった。言わば有名なお屋敷なのだ。そんな家に嶺歌が立ち入っても良いのだろうか。嶺歌は決して自分を卑下している訳ではなく、形南の存在があまりにも大きすぎるが故に身の程を弁えているのである。しかしそんな嶺歌の心配とは裏腹に形南は当然のように『勿論ですわ!!』といつも以上に声を張り上げて返答する。
『嶺歌は私の大切なお友達ですもの! 私の家に招き入れない理由がありませんの!』
「あはは、あれなって友達思いだよね。ありがと。じゃあお言葉に甘えて遊びに行くね」
『ええ、そうして下さいまし。当日は貴女のご自宅までお迎えに参りますの』
形南の言葉を素直に受け取った嶺歌はそのまま礼を告げると会う日に何をするかを話し始めた。そしていつの間にか時間は夜中の十二時を回り、充実な時間はあっという間に過ぎ去っていった。
「嶺歌、お迎えに上がりましたの」
「あれなおはよう。ありがとね」
翌日になると予告通り嶺歌のマンションまで形南が迎えにきてくれていた。嶺歌の挨拶に形南は嬉しそうに笑みを向けながら「ええおはようございますの」と言葉を返すとそのまま嶺歌の手を引いてリムジンへと誘導してくる。そしてリムジンの目の前にはいつものように丁寧な一礼をする兜悟朗の姿がそこにあった。嶺歌は彼に目線を向け「よろしくお願いします」と小さく会釈をした。これから形南の豪邸まで連れていってもらうからだ。すると兜悟朗は柔らかに口元を緩めると「恐縮で御座います」と言葉を口にした。
彼の礼儀正しいお辞儀を正面から受けると形南が「兜悟朗、本日は
「ささ、嶺歌。どうぞお乗りなさいな」
彼女は無邪気な笑顔で嶺歌にそう告げてくる。これは彼女なりの友好の証なのだろう。
「ありがとう」
嶺歌は彼女の好意を素直に受け取り促されるままリムジンに乗り込んだ。その後兜悟朗が形南を車の中へ乗せ、最後に兜悟朗が運転席へと乗り込んでくる。車が発進すると数十分程で形南の大きなお屋敷に到着するのであった。
形南が暮らす自宅、いや誰もがお屋敷と呼ぶであろうその大きな家はテレビで見る何倍以上もの迫力があり、豪華以外に言葉が思い付かなかった。
(凄すぎる……)
嶺歌はあまりの豪邸さに呆気に取られていると形南は不思議そうな顔をして「どうされましたの? こちらですのよ!」と言葉を掛けてくる。この不思議そうな反応をみるに、形南は庶民を自宅に連れてくる機会がそうそうないのかもしれない。
嶺歌はうんと言葉を返すと彼女に案内されながら大きなお屋敷の中へと入っていく。後ろからは一定の距離を保って兜悟朗がついてきていた。
ここが形南の部屋だという扉をくぐると中には想像以上に広くて豪華な部屋がそこにあった。美しく整えられた高価そうな物に加え、埃ひとつない綺麗な床。嶺歌は思わず感動して言葉を失っていた。形南は部屋に入ると「こちらにお座りくださいな」といかにも高級そうなソファに嶺歌を案内する。通常であればこのようなソファに腰を掛ける機会すらないだろう。彼女に促されそのままソファにそっと腰を下ろすと形南は嬉しそうな表情を更に和らげ、真向かいに座り始めた。
「それでは早速始めましょうか」
始めると言うのはお疲れ会だ。形南は事前に用意をしてくれていたようで、腰掛けたソファの前にあるテーブルにはすでにアフタヌーンティーと呼べるお菓子や紅茶の入ったティーカップが一式揃えられていた。それを見て嶺歌は自前で用意していたある物を取り出した。
「あ、そうだ。一応……」
そう言って嶺歌は自身の持っていた紙袋からラッピングされたそれを手に取る。形南はキョトンとした様子で不思議そうに嶺歌の持つそれに目を向けていると「そちらは何ですの?」と疑問を口にした。
「お菓子作ってみたんだ。市販のものとか失礼かなって思って手作りなんだけど……ってあれ、考えたら手作りのがまずかったりする?」
第八話①『招待』終
next→第八話②(4月1日更新予定です)
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