エピローグ アンドロイドは私の友だち

 ビーーーーーーーーーーーーッ!!!!


 台所で朝ごはんを作っていると、家中にけたたましい電子音が響き渡った。


「お父さん起きたぁー!?」


 みそ汁をつくる手を止めて、階段に向かってそうさけぶ。


「全然起きません!!」


 二階からレイナがそう言うので、私はため息をつきながらコンロの火を消した。

 その間にも電子音はずっと鳴っている。とんでもなく近所迷惑だ。


「レイナ止めて!」


 私が階段を上がりながらそう言うと、音はピタリと止まった。

 お父さんの寝室をバンと開くと、たしかにお父さんが布団の中でまゆのように寝ている。

 窓にかかったままのカーテンを勢いよく開けると光が差しこんで、お父さんが「うう」とうめき声を上げた。


「だめだこりゃ。だから徹夜するなって言ったのに……」

「まったくですね。どうしますか?」

「無理やり起こして洗面所に連れてっていいよ。私たちもお父さんも遅刻しちゃう」

「了解しました、アオイ」


 レイナがうなずくと同時に、今度はピンポーンとチャイムが鳴った。

 あわてて玄関に向かってインターホンを確認すると、真穂おばさんが映っていたのですぐに玄関扉を開けた。


「おばさん、おはよう!」

「おはようアオちゃん。お父さんは――」


 真穂おばさんは顔を上げてぎょっとした。

 米袋をかつぐようにしてお父さんをかついだレイナが一階から下りてきたからだ。


「真穂様、おはようございます。騒がしくて申し訳ありません」


 おばさんが呆然としている間に、レイナはぺこりと一礼してお父さんを洗面所へ連れて行った。あの調子じゃまだ寝ているに違いない。


「……うまくやれてる……って言っていいのかわからないけど、まあ、よかったわ」

「うん、うまくやれてるよ」


 私の顔は満面の笑みになっていたに違いなかった。

 真穂おばさんはポンポン頭をなでてくれて、家に上がった。

 台所にやってくるとびっくりして声を上げる。


「アオちゃん、料理上手になったわねえ!」

「レイナに教えてもらったんだ。あの子、失敗はするけど情報は正確だからね」

「……アオちゃん、毎日楽しい?」

「うん!」


 私がうなずくと、真穂おばさんはもう一度私の頭をなでてくれた。

 ようやく起きてきたお父さんと四人で朝ごはんを食べる。

 レイナは相変わらず、この機械の体でどうやってごはんをエネルギーに変えているんだか。

 お父さんは何が起こったか分からないようすで、まだ目をしぱしぱさせている。

 真穂おばさんはそんな二人を見て、私を顔を見合わせて笑った。


「二人とも、そろそろ学校へ行く時間じゃない?」

「うわっ……もうこんな時間! でもまだ皿洗い――」

「いいのよ、私がやっておくから。お父さんのことも任せてよ。ちゃーんとたたき起こして仕事場まで連れて行くからね」

「あはは……じゃあ、よろしくお願いします! レイナ行くよ! お父さん行ってきます!」

「行ってらっしゃい……」


 お父さんは目の下にくまをつくったまま、ひらひらと手を振った。

 私たちはランドセルを背負って外へと飛び出す。


「今度お父さんの研究所に抗議の電話を入れよう。あんなんじゃお父さんかわいそうだよ」

「確かにあれでは活動パフォーマンスが低下しなにも良いことはありませんね。私からも通達しておきましょう」

「レイナが来てくれて助かってるよ」


 私がそう言うと、レイナはめずらしくにやっと笑った。

 いつもの機械みたいな整った笑い方じゃなくて、ちょっといじわるな感じ。


「私が来てくれて助かっている? 私がいてうれしいですか?」

「あー、もう、はいはい。うれしいうれしい」

「ちょっとアオイ――それはひどいのではないですか!?」

「うれしいって言ったじゃん」

「心がこもっていません!」

「アハハ。そこまでわかるんだ。さっすが高性能アンドロイド」


 茶化すようにそう言うと、レイナはウデをブンブン振り回した。


「もう……怒りますよ!」


 レイナの反撃。私の脇に手をずぼっと突っこんで、こしょこしょとくすぐった。


「うわーっ! やめてー! アハハ!」


 私がゲラゲラ笑うと、レイナも笑った。

 レイナはアンドロイドだから、ウソをつかない。

 でも、私だってウソはついてない。


 あなたが来てくれて、本当によかったって思ってるよ。

 これからもよろしくね、レイナ。


(おわり)

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アンドロイドは私の友だち。 いちしちいち @itisitiiti171

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