潮風と港町、夕凪

潮風の吹く港沿いの道を、アスファルトに引かれた白線に沿って、歩みを進める。靴音が、一歩、二歩と、固く響いた。僕はそれを聴きながら、錆びかけたガードレール、或いは塗装の剥げた、斜陽(しゃよう)の映るカーブミラーを、横目に見る。


水平線から朦々もうもうと立ち昇るような入道雲が、辺りいっぱいの群青を押し退けて、純白のインクを撒き散らしていた。満開の青を覆い尽くす、白よりも白い白だ。


──あの人への告白の言葉は、もう、決まっていた。それを何度も、心の中で反芻(はんすう)する。何回目か数えるのをやめた時、ふと、海から吹き抜けていた風が、頬を撫でていた風が、ぴたりと止んだ。


音が消える。微かな波音だけが響いている。時が止まったような停滞に、僕は錯覚した。言いようのない、不安と焦燥(しょうそう)。夕凪に包まれた、告白への恐怖感。けれどそれも、ほんの一瞬のことだった。


──それを吹き飛ばすのは、海風。潮香(しおか)を嗅ぎながら、僕は昊天(こうてん)を見上げた。

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