凍玻璃と、冬暁

「頭上にまっすぐそびえる電柱。世界を裂いて伸びる電線。そのシルエットは暁にかげり、空にぽっかり、落とし穴。手と手を繋いで仲良く直立、増えて増えての落とし穴。向こうに見える鉄塔は、小人。


茜と紫金、ただ薄ぼらけ、淡くて青い、白藍の空。そこに揺らめく紺の雲。ちぎれかけて、融け消ゆる。凍てつくような、冬の朝。凍玻璃いてはり越しに、覗き込む。」


──凍玻璃。凍りついた硝子のこと。この言葉を知ったから、僕はちょっと、使いたくなった。窓の向こうに見えるのは、ノートに散らした情景そのまま。名付けるなら、『凍玻璃と、冬暁』。


春が来たら、きっと、この凍てついた何かも、融けてくれるのだろうか。無条件の温かさに包まれて、得体の知れない閉塞感も、拭ってくれるのだろうか。


春暁は、まだ遠い。布団の温もりに手を伸ばす。これは、春。紛い物の春。それでもいいから、温かさが欲しかった。


目元を伝う冷たい雫は、きっと、冬。

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