非人情の世界で可能性を信じる。

2023年、角川シネマ有楽町で開催された「大映4K映画祭」にて、溝口健二監督の『山椒大夫』を観る機会を得た。

「安寿恋しや、ほうやれほ。
厨子王恋しや、ほうやれほ」

その物悲しい母の歌はしばらく耳から離れなかった。
原作の方とは違った筋となるが、根底にあるものは同じに思える。結末の再会へと物語は力強い。
非人情な世界の中で、運命に流されながらも母との再会を果たす厨子王、そのために死へ向かおうとも逃す安寿。
どうにもならないとへこたれるには、私たちはまだ早い。

どれだけ荒れ果てようとも、悪党だけしかいないわけではないのだ。

単純な感動だが、その水底には深いものが隠れている。だからまた、見つけるために読み返すことになると思う。