山椒大夫
森鷗外/カクヨム近代文学館
道は百姓
「まああの美しい
子供は母の指さす
姉娘が突然弟を
「
母が
「でも早く
一
それに女中が声を掛けた。「
潮汲女は足を
女中が云った。「それは本当ですか。どうしてそんなに
二人の子供は、はずんで来る対話の調子を気にして、潮汲女の
潮汲女は云った。「いいえ。信者が多くて
「それは困りますね。子供
「そうですね。わたしの通う塩浜のあるあたりまで、あなた方がお出なさると、夜になってしまいましょう。どうもそこらで
子供
潮汲女は受け合って、柞の林の
────────
荒川に掛け渡した
橋の袂に、河原へ洗濯に降りるものの通う道がある。そこから一群は河原に降りた。なる
奥深く
男の子が先に立って、横になっている材木の上に乗って、一番
姉娘はおそるおそる弟の
「まあ、お
母親がすわると、二人の子供が左右から
女中の包から出したのは衣類ばかりではない。用心に持っている
女中はまめまめしく出て行った。子供は楽しげに
這入って来たのは四十歳ばかりの男である。
親子は
男はこんな事を言う。「わしは
子供の母はつくづく聞いていたが、世間の掟に
山岡大夫は
母親は気の毒そうに云った。「どうぞ少しお
山岡大夫は耳を
「子供達の世話をさせに連れて出た女中でございます。湯を貰うと申して、街道を三四町
「お女中かな。そんなら待って進ぜましょう。」山岡大夫の落ち
────────
ここは
一
自分は
さてここまでは来たが、筑紫の
大夫は知れ切った事を問われたように、少しもためらわずに船路を行くことを勧めた。
夜が明け掛かると、大夫は主従四人をせき立てて家を出た。
子供等の母は最初に宿を
母親は
山岡大夫は
────────
山岡大夫は
「どうじゃ。あるか。」
大夫は右の手を挙げて、
前からいた船頭の一人は
「
「
大夫は二人の船頭の顔を
「さあ、お二人ずつあの舟へお
二人の子供は宮崎が舟へ、母親と姥竹とは佐渡が舟へ、大夫が手を
「あの、
「わしはこれでお
母親は佐渡に言った。「同じ道を
佐渡と宮崎とは顔を
母親は
子供は
舟と舟とは次第に遠ざかる。
姥竹は佐渡の二郎に「
「うるさい」と佐渡は
姥竹は身を
「こら」と云って船頭は
母親は
「たわけが」と、佐渡は髪を摑んで引き倒した。「うぬまで死なせてなるものか。大事な
佐渡の二郎は
────────
「お
「もう呼ぶな」と宮崎が叱った。「
姉の安寿と弟の厨子王とは抱き合って泣いている。
こうして
宮崎が舟は廻り廻って、
港に
「やれやれ、
────────
一
二人の子供は奴頭の
大夫は云った。「
「
大夫は
三郎が云った。「
奴頭は二人の子供を
奴頭が出て
────────
翌日の朝はひどく寒かった。ゆうべは小屋に備えてある
きのう奴頭に教えられたように、厨子王は
姉と弟とは
厨子王が登る山は
厨子王は雑木林の中に立ってあたりを見廻した。
日が
「日に三
「日に三荷の柴ならば、
厨子王は気を取り直して、ようよう午までに一荷苅り、午から又一荷苅った。
浜辺に
隣で汲んでいる
「
隣で汲んでいる女子に、無邪気な安寿が気に入った。二人は
最初の日はこんな
────────
姉は潮を汲み、弟は柴を苅って、
二人は死んでも別れぬと云った。奴頭が大夫に訴えた。
大夫は云った。「たわけた話じゃ。奴は奴の組へ引き
奴頭が
「それもそうか。損になる事はわしも
二郎は三の木戸に小屋を掛けさせて、姉と弟とを一しょに置いた。
二郎は小屋に
二人は父母の事を言う
三郎は弓矢を持って、つと小屋の内に這入った。「こら。お
二人の子供は
厨子王は云った。「
三郎は二人の顔を
二人の子供は起き直って夢の話をした。同じ夢を同じ時に見たのである。安寿は
────────
二人の子供が話を三郎に
安寿の前と
雪が降ったり
山椒大夫が
寂しい三の木戸の小屋へは、
三日立つと、
────────
水が
藁を擣っていた厨子王が返事をしようとして、まだ
厨子王は姉の様子が二度目に変ったらしく見えるのに驚き、
二郎は物を言わずに、安寿の様子をじっと見ている。安寿は「
厨子王は
姉の顔は
「そうですか。変ですなあ。」厨子王は珍らしい物を見るように姉の顔を眺めている。
「これはどうもお
奴頭はそれを受け取ったが、まだ帰りそうにはしない。顔には一種の
奴頭は安寿に
────────
あくる朝、二人の子供は背に
厨子王は姉の心を
山の
安寿はけさも
山に登ろうとする所に沼がある。
厨子王は黙って
去年柴を苅った
「まあ、もっと高い所へ登って見ましょうね。」安寿は先に立ってずんずん登って行く。厨子王は訝りながら
安寿はそこに立って、南の
厨子王は黙って聞いていたが、涙が頰を伝って流れて来た。「そして、
「わたしの事は構わないで、お前一人でする事を、わたしと一しょにする
「でもわたしがいなくなったら、あなたをひどい目に逢わせましょう。」厨子王が心には
「それは
厨子王はなんとも思い
木立の所まで降りて、二人は籠と鎌とを
「でも
「いいえ。わたしよりはあぶない目に逢うお前にお守を預けます。晩にお前が帰らないと、きっと
「でもお寺の坊さんが隠して置いてくれるでしょうか。」
「さあ、それが
「そうですね。
「おう、
「そうです。わたしにもそうらしく思われて来ました。逃げて都へも
「さあ、
二人は急いで山を降りた。足の
泉の湧く所へ来た。姉は
弟は椀を飲み
厨子王は十歩ばかり残っていた坂道を、一走りに駆け降りて、沼に沿うて街道に出た。そして
安寿は泉の
────────
三郎は堂の前に立って大声に云った。「これへ参ったのは、石浦の山椒大夫が
本堂の前から門の
初め討手が門外から門を
三郎は
ようようの事で本堂の戸が静かに開いた。曇猛律師が自分で開けたのである。律師は
律師は
三郎は本堂の戸を睨んで
三郎は驚いて声の
「それじゃ。
松明の行列が寺の門を出て、築泥の外を南へ行くのを、鐘楼守は鐘楼から見て、大声で笑った。近い
────────
あくる日に国分寺からは
二人は真昼に街道を歩いて、夜は
都に
厨子王は云った。「わたくしは
師実は仏像を手に取って、
────────
関白師実の娘と云ったのは、仙洞に
師実は厨子王に還俗させて、自分で
正道は任国のためにこれだけの事をして置いて、特に
佐渡の
正道はなぜか知らず、
安寿恋しや、ほうやれほ。
厨子王恋しや、ほうやれほ。
鳥も
正道はうっとりとなって、
女は雀でない、大きいものが粟をあらしに来たのを知った。そしていつもの詞を
「厨子王」と云う
山椒大夫 森鷗外/カクヨム近代文学館 @Kotenbu_official
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