完璧

小説とは、何をどう書いてもよい。そう森鴎外は言っていて、それもあって、完璧だの瘕だのというのもどうかとおもうが。誤りであるかもしれぬが。
さりながら、ひとつの型としてみたとき、本作は完璧。非の打ちどころがない。
簡素で素っ気ないようでいて、いや、それだからこそその稟性が問われるし、よくあらわれる。
文章の膂力のつよさ。描写の的確さ。粗いようでいて、細やかなさま。歴史、地理への深い造詣。
なかんずく、決まりすぎるくらいうまく決まったラスト。エンターテイメントとしても充分楽しめる。
もっとも、森鴎外は夏目漱石だの芥川龍之介とならび、いまの言文一致の礎になった方だから、いまの純文学のみならずエンターテイメントにも少なからず影響をおよぼしているわけだが。
あまりに有名であるが、読まれた方もまた読むべきであり、未読の方は必読。
ものを書こうとする者であれば、拳拳服膺すべき傑作。