墓前へ手向けた一輪の花

多分、だが、本作を書きながら、太宰治は幾度か涙したのではないか。
晴朗でユーモアのある内容、もちろん深刻な部分もあるが、と疑問に思われるかもしれぬ。
太宰治は、周知の通り、ファンだとか知人の日記だの手記だのを元に作品にしている。本作も然りで、ファンから送られたものを元にしてある。その方は自殺されている。その方にとって、ファンである太宰治に読んでもらうこと、作品にしてもらうことは誉れであり、うれしかったことだろうと推察する。そうあって欲しいと願いもする。
そして太宰治は、明るく晴朗なほうへもってゆこうと、志たのだろうと思う。祈るように、涙しながら。
これは、太宰治がファンの墓前へと手向けた一輪の花ではないか。