パンドラの匣

太宰治/カクヨム近代文学館

作者の言葉

 この小説は、「健康道場」と称するる療養所で病いと闘っている二十歳の男の子から、その親友にてた手紙の形式になっている。手紙の形式の小説は、これまでの新聞小説には前例が少かったのではなかろうかと思われる。だから、読者も、はじめの四、五回は少し勝手が違ってまごつくかも知れないが、しかし、手紙の形式はまた、現実感が濃いので、昔から外国にいても日本に於いても、多くの作者にって試みられて来たものである。

「パンドラのはこ」という題については、明日のこの小説の第一回に於て書き記してあるはずだし、で申上げて置きたい事は、もう何も無い。

 はなはだぶあいそな前口上でいけないが、しかし、こんなぶあいそなあいさつをする男の書く小説が案外面白い事がある。

     (昭和二十年秋、河北新報に連載の際に読者になせる作者の言葉による。)

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