幕ひらく
1
君、思い違いしちゃいけない。僕は、ちっとも、しょげてはいないのだ。君からあんな、なぐさめの手紙をもらって、僕はまごついて、それから何だか恥ずかしくて赤面しました。妙に落ちつかない気持でした。こんな事を言うと、君は怒るかも知れないけれど、僕は君の手紙を読んで、「古いな」と思いました。君、もうすでに新しい幕がひらかれてしまっているのです。しかも、われらの先祖のいちども経験しなかった全然あたらしい幕が。
古い気取りはよそうじゃないか。それはもうたいてい、ウソなのだから。僕は、いま、自分のこの胸の病気に
「
とお母さんに言って、お父さんは、僕のためにこの山腹の健康道場を選んでくれた。本当にもう、それだけの事だ。或る日、或る時とは、どんな事か。それは君にもおわかりだろう。あの日だよ。あの日の正午だよ。ほとんど
あの日以来、僕は何だか、新造の大きい船にでも乗せられているような気持だ。この船はいったいどこへ行くのか。それは僕にもわからない。未だ、まるで夢見心地だ。船は、するする岸を離れる。この航路は、世界の誰も経験した事のない全く新しい処女航路らしい、という事だけは、おぼろげながら予感できるが、しかし、いまのところ、ただ新しい大きな船の出迎えを受けて、天の
しかし、君、誤解してはいけない。僕は決して、絶望の末の虚無みたいなものになっているわけではない。船の出帆は、それはどんな性質な出帆であっても、必ず何かしらの
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