ただの“友人”ではない2人が行き着く未来は切なくも、どこか心温かい…

 “僕”と“彼女”。2人の目線で語られる、切なくもどこか温もりのあるストーリー。

 一人称で進む物語。幼少、小学生、高校生、大人。4話構成のどの場面も冬で、吹きすさぶ冷たい風が印象的です。それと同じくらい“彼女”の手足も心も冷たい。そんな彼女に温もりを与え、支えてあげているのが“僕”です。

 多くを語るわけでもない。彼女の愚痴を聞いて、ちょっとした軽口を叩きながら、ずっとそばにいる。だけど本音のところでは何もできない自分に、思うところもある。──ただの友達でしかない。そんな僕目線のお話は読んでいて切なく、キュッと胸が締め付けられる思いです。

 しかも、そのやるせなさを抱えたままやがて訪れる別れ。誰よりも彼女を思うからこそ“友人として”見送る僕の心情は痛いほどに共感できてしまいます。

 そして、最終話にあるのが彼女の視点。唐突に訪れた、大切な友人との別れ。いつでも自分を支えてくれた僕との思い出は彼女にとって本当の意味で青春だったのでしょう。何よりも大切なはずの人々を手に入れても、同じくらい、あるいはそれ以上に大切な僕のことは忘れられないでいる。そんな彼女の心が地の文からはもちろん、髪色からも伺えます。

 僕の目線、言葉、見ている物事など。2人にとっての青春を記した場面を注意深く読めばそれら全てが、2人の本当の関係性を表すものだとわかるはずです。だからこそ、最終的に語られる僕と彼女の関係性には救いもあって、何より納得感がありました。

 手を擦り合わせ、息を白ませながら話す僕と彼女の青春が行き着く先。約6000字に濃縮された切なく、儚くも、心がほっと温まるヒューマンドラマ。ぜひ、見届けてほしいものです。

 どんな方にもオススメしたい、とても素敵な作品です!

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