文章の作り方を抽象化と具体化で考える

 文章技術編の内容が薄いと感じた方は意外と多いのではなかろうか。

 実際、意図的に内容を薄くしていた。その理由は、文章の作り方を詳しく述べると、独善的な内容になると判断したからだ。


 文章というのは、漫画家の絵柄みたいなものだ。

 絵の好き嫌いが誰にでもあるように、文章の好き嫌いもある。

 故に、どっちが優れており、どっちが劣っているのか、それは判断できない。

 それだけはくれぐれも間違えないようにしてもらいたい。


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 藤子・F・不二雄氏は『藤子・F・不二雄のまんが技法』にて。


「その人だけの画風がある」という節に置いて——。


 漫画家にはそれぞれが画風を持っている。

 その画風が生まれる理由は、漫画家は目で見たものをそのまま書き写すのではなく、書きたいものを頭の中で一旦処理して、必要な部分だけを抜き出しているからという内容を書き記している。


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 小説を書き続けていると、自分の文章が嫌いになることがある。

 どうして自分は下手な文章しか書けないのかと。

 でも、私は藤子氏が残してくれた上記の考え方に深く感銘を受けた。


「憧れの人みたいな文章は書けないけど……それは当たり前なんだ」

「だって、頭の中で一旦処理して、自分が必要な部分を抜き出してるんだから」


 そう考えると、物凄く気が楽になった。

 憧れの作家みたいな文章を書きたい。その気持ちは大いに分かるのだが、彼彼女と脳内の思考回路が違うと割り切って考えれば、随分と気が楽になるだろう。


◇◆◇◆◇◆


 今回の内容は諸刃の剣だ。

 理解できれば物凄い力が手に入る。

 だが、それと引き換えに、思考プロセスが激変する。


 つまり——今までの文体で文章を紡げるか保証できません。


 私としては、今後生まれる未来ある作家の文体を壊したくない。


 だからこそ、今から書く内容は、冗談半分で聞いて欲しい。

 少しでも役に立つかもという部分があれば、是非とも真似してくれ。


 ではでは、煽り文句を入れつつ、本編スタートです。


◇◆◇◆◇◆


 文章を作るために必要な要素は三つある。


1抽象化と具体化(作家の思考方法)

2カメラワーク(作家の着眼点)

3文体(作家の言葉選び)


 で、文章を書く上で生じる問題は、抽象化と具体化で殆ど解決できる。


◇◆◇◆◇◆


 前回の内容で「美少女を何回書けるか?」ということを説明した。


 で、この内容に関して、実際に挑戦してくれた方がいました。

 大変ありがたいお話です。でも、二回でギブアップしたとのこと。

 なので、どうやったら書けるのかを詳しく解説します。


 しかし、その前に、なぜ数回でギブアップするのかを説明します。


(過去の自分を例に挙げます。原因が違う方もいるかもしれないが、改善案は同じなので、是非とも最後まで読んでくれると助かります)


『極上の絹を連想させる黒髪は肩甲骨に触れる程度で、その奥には長い睫毛に鋭い瞳。筋が通った鼻先に、ぷるっとした唇』


 上記の内容は「美少女」と言われたら、私が真っ先に思い付く美少女の書き方です。連想ゲームみたいなもので、無意識の間に勝手に生まれます。なので、全く時間がかかりません。今までの読書経験で培ったストックというわけです。


 しかし、これが二回、三回と続くと……私は無意識では書けなくなります。


 その原因は、美少女の姿形を具体化できていないから。

 要するに、特定の美少女というのを頭の中で思い浮かべていないからです。


 本当に馬鹿らしい話ですが、当時の私は「美少女」を書きたい意思だけはあった。でも、その美少女のことをしっかりと見てあげてなかったんです。


 その代わり、何をしていたのかと言いますと……。


「美少女」を彩る語彙や表現探しに夢中になっていたわけです。


 真珠のような瞳、ダイヤモンドのような瞳、黒曜石のような瞳


 みたいな感じで、美しいと思うものを探しまくっていました。


 当時の思考回路としては——。


「小説というのは、キャラが見えない!! 顔がない!!」

「ならば、美少女には美しい表現で彩ってあげればいいんだ!!」

「そしたら読者の皆様にも、美少女の美しさが分かってもらえるはず!!」


 で、私は美しい表現を駆使して、のっぺらぼうな美少女にキャラメイクを行っていたわけだ。


 ゲームの一番最初にさ、キャラメイク画面があるでしょ??

 あんな風に、私は語彙と表現を当てはまて、キャラの顔を作っていた。

 今考えれば、この方法は極めて危険だったなと思います。


◇◆◇◆◇◆


 改善案を教えてしまうと、「美少女」と真剣に向き合えですッ!!


 美少女という言葉は抽象的です。

 なので、これをもっと具体化させます。


 方法は至って単純で、美少女の設定を細かく決めてください。


「美少女はどんなひと?」


——深窓の令嬢です


「美少女はどんなことが好きですか?」


——読書が好きです


 みたいな感じで、質問を繰り返してあげればいい。

 意外な部分が見つかる可能性があります。


◇◆◇◆◇◆


 と、口だけで言っても、意味がないので例を出します。


『極上の絹を連想させる黒髪は肩甲骨に触れる程度で、その奥には長い睫毛に鋭い瞳。筋が通った鼻先に、ぷるっとした唇』


 上記の文章を下地に、実際に文章を書いてみました。


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『お題:黒髪ロングな美少女』


 深窓の令嬢。その名を持つ彼女は教室の窓側から一番目、前から三番目の位置に座り、今日も一人読書に耽っていた。折角の休み時間なのに、誰も彼女を気に留めもしない。

 背筋を伸ばした状態で椅子に座り、ページを捲っているのだ。だが、長い睫毛に、猫を連想させる二重の黒い瞳は素っ気なかった。

 読書が好きというわけではなく、ただの暇潰しで読んでいるという風に見えなくもない。現実の世界から逃げたいから、ただ読書の世界に逃げ込んでいるだけのようにしか。

 僅かに開いた窓から潮風が入る。僕たちが通う学校から数キロ先に港があるのだ。昼休みになると、海鳥がこちらまで飛んでくる。餌をあげる生徒も多数いて、学校内で問題になったことがある。そんな潮風に吹かれて、ゆらゆらと極上の絹を連想させる長い黒髪が揺れ、僕の元へ柑橘系の香りが漂ってきた。


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 これぐらいの文章を書けるレベルまで、皆様の文章力を上げます。

 上記に出した文章よりも遥かにキャラの特徴がわかりやすく、雰囲気が伝わったと思ってます。


 クドイ箇所も多々あるかもしれませんが、私の文体なので許してください。


◇◆◇◆◇◆


 今から実践編に入ります。


 皆様と一緒に具体化を行い、文章を紡いでいければいいなと。


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 放課後の教室。

 九月だというのに、蝉はまだ鳴き止まず、汗がジィ〜とまとわりついてくる。

 エアコンを入れさせろと思いながらも、僕は夏休みの宿題に取り組んでいるのだが。


 全くと言っていいほどに、集中できない。


「あぁ〜。どんな人が演奏してるんだろ?」


 僕のクラスである三年E組の隣には、音楽室があるのだが、そこから美しい音色が聞こえてくるのだ。曲の名前は知らずとも、クラシックだということは分かる。

 繊細な音色を出せるのだ。きっと可憐な少女が弾いているに違いない。そう確信した僕は教室を抜け出し、音楽室へと向かった。


 ソッと扉を開いてみると——。


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1抽象化と具体化(作家の思考方法)

2カメラワーク(作家の着眼点)

3文体(作家の言葉選び)


 この三ステップで文章を紡ぎます。


1『抽象化と具体化』


 一番最初は、箇条書きでいいので、バババババッと特徴を書いてください。


・金髪碧眼

・ヴァイオリン

・白い腕

・日本人離れした体格

・胸元には赤いリボン

・音楽が大好き

・目を瞑ったまま演奏している

・彼女の周りには色が付いて見えた

・髪の毛が乱れると、何か粒子が出ているようだ

・エアコンの音が響き、冷たい空気が僕の体をひんやりとさせる


2『カメラワーク』


 上記の箇条書きを下地にし、自分が書きたいものは何かを特定します。


『ヴァイオリンを演奏する金髪碧眼な美少女』


 →注目点は『美少女』優先で、ヴァイオリンはざっくりと書くイメージ


『演奏がバレると、涼しげな表情で彼女は問いかけてくる』


 →空気が一瞬静まる感じで、少女はゆっくりと近づいてくる


『演奏後にメガネを掛け直し、主人公を見て、謎の驚きを見せる』


 →目を見開く感じで、顔が急激に赤くなる感じではないだろうか?



 という感じで、どの部分に注目し、どの部分に注目しないかを決めます。


3『文体』


 書きたい内容が決まったので、文章を紡ぐだけです。

 皆様の文体で思い描くままに書いてみてください。

 自分の言葉で、自分の表現で書けばいいと思います。


 では、実際に書いてみます。


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 ソッと扉を開いてみると——。


 音楽室の中央でヴァイオリンを演奏する少女の姿があった。

 目を瞑ったままに弦を引いている。動作の一つ一つが洗練されており、無駄な動きは全くない。聞いているだけで、人の心を癒す能力を持っている。


 彼女を一言で表すのならば、森の最奥で暮らす妖精だろう。


 浮世離れした金色の髪は背骨を流れるように伸び、女性らしさ溢れる胸元は大きく盛り上がり、その谷間には赤いリボンがある。学年ごとに色分けされているので、彼女の学年が僕と同じ三年生だというのが分かった。


「ふぅ〜〜〜〜〜〜〜」


 思い描いた演奏を終えたらしく、少女は満足気に深呼吸を繰り返す。

 そんな彼女を称賛するべく、彼女の奏でた音楽に聞き惚れていた僕は、パチパチと拍手を送った。


 その瞬間、金髪少女はビクッと体を動かし、目を見開く。サファイアのように碧く輝いた瞳だ。突然の訪問者に怯えた様子で、彼女は小さな声で訊ねてきた。


「……誰かおられるのですか?」


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 という感じで、文章を紡いでいくだけです。


 簡単に補足をしますと……。


『抽象化と具体化』は、明確な言葉で言語化する作業を行います。


 美少女を書くのならば——。


「綺麗な瞳」→「どんな宝石にも負けないほど輝いた瞳」

「美しい髪」→「川のせせらぎを流れるように揺れる長い黒髪」


※美少女を具体化した上で、美しい表現を探してください。


『カメラワーク』は、自分が書きたいものをどの点に注目するか決めます。


 自分が本当に書きたいのは何かを特定化する作業です。

、小説というのは見えるもの全てを書き出せばいいわけではありません。

 なので、取捨選択する必要があるわけです。

 カメラのズーム機能というのが一番分かりやすいかもしれません。

 どの部分に自分は重きを置いているのかを特定するのか、検討してください。


『文体』は、自分の言葉で、自分の表現で書き出す作業になります。


 もう私が説明しなくても、皆様の好き勝手に書いてもらえればいいです。


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『キャラクター性格表』の回で説明したものをもう一度コピペしておきます。


 大沢在昌氏の『売れる作家の全技術』にて。

 キャラクター創作に関する記述で、キャラを伝える方法は「雰囲気」だと語っている。数字や固有名詞で伝えるのではなく、「雰囲気」を伝えろと。


 今回、お二人の美少女を書いてみましたが……どちらも雰囲気を伝えられたと勝手に思っています。皆様、どうだったでしょうか??


『極上の絹を連想させる黒髪は肩甲骨に触れる程度で、その奥には長い睫毛に鋭い瞳。筋が通った鼻先に、ぷるっとした唇』


 というのは、一見良さそうな描写にも見えますが、雰囲気が伝わってこないというか、容姿の特徴を述べているだけで、何も伝わってこないのが分かるかな?


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作家から


 抽象化と具体化。この作業ができれば、確実に文章は書けます。

 今回は「美少女」で書きましたが、他のどの単語でも対応可能です。


「リゾート地」→「ヤシの木」「白い浜辺」「異国の言語が飛び交う」「怪しげな出店があり、値段が高すぎるレストランも点在している」「海鮮丼がおすすめメニュー」「パインジュースとか売ってそう」「貝殻やシーグラスがある」「小魚が泳いでいる」「透き通るほどに綺麗な海」「相撲を取る子供たち」「ナイスバディな女性陣」


 みたいな感じで、ガンガン具体化させてください。

 で、その後に、どの部分が本当に必要なのかを見極めて、書くだけです。



 え〜と、突然ですが、今回で努力嫌いな遅筆シリーズは完結です( ̄▽ ̄)


 完結詐欺を何度かしてきましたが、本当の本当に最終回だと思います。


 理由は、お仕事の都合上です。

 数年単位で忙しくなるのでエッセイを書く時間が殆ど取れません。


 ただ、私の考えは基本的に殆ど伝えられたはず。

 皆さん、楽しい執筆ライフを送ってください( ̄∀ ̄)

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努力嫌いな遅筆が少しでも早く小説を書き上げる方法〜創作本を読んだものの、全く理解できなかった飽き性人間の小説攻略〜 平日黒髪お姉さん @ruto7

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