(17)たかが知れている

 時折、宇宙に思いを馳せる。


 目を閉じて、世界が真っ暗になったとき。水面に漂うとき。自分と世界の境界が曖昧になるとつい、子供の頃の夢を思い出す。宇宙飛行士になりたかったのだ。


 遥か遥か遠い星々をめがけ、光さえも追いつけない速度で、真っ暗で空っぽで期待に満ちた眩い旅路に出る。ひとりぼっちの星間飛行。甘美な響きに、幼心を躍らせたものだ。


 懐かしさに駆られたのは、おそらく目を開けてもなにも見えない、暗闇のせいに違いない。


 冷たい空気が、心までしんと沈めていく。ゆえに、同情はしない。


 他愛もない希望さえも抱けなかった、その苦痛や悲壮は理解できる。だが、それだけだ。寄り添いも、慰めも、一緒に怒ることも、しない。


 私にできることなど、たかが知れている。何もしない。私は私の世界を守るためなら、それ以外を壊したって構わない。

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幽怪の編集者 日笠しょう @higasa_akira

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