(16)今ごろ報復を受けている可能性はあります

 駅のホームは2両分の長さしかなく、両手の指で間に合う人数でも、混雑して見えた。

 

 残暑はまだ厳しい。吹き抜ける風にこそ秋が見え隠れしているものの、照りつける日差しは未だ容赦がない。


 気の抜けた音とともに、電車がホームに滑り込んできた。


 仕事があるから、なんて先生は言わない。百歩譲って、アルバイトならあるかもしれない。でも、失踪前に入っていたシフトは全部バックれているから、今さら戻れないはずだ。


 久遠さんに関わるな。


 微睡のなかで聞こえたその言葉が、まるで遺言のように思えた。


 もう会えないのでは。そんな考えが頭をよぎる。うだるような熱気が、嫌な気持ちばかり膨らませる。


 なんの意味があって、そんな言葉を残したのか。なにがあって、消えたのか。どれもわからないまま、この村を発つわけにはいかない。


 目の前でドアが閉まる。ゆっくり走り出す電車を、翠夏と2人、ホームから見送った。


「翠夏まで残らなくても、よかったんですよ」

「私、そんな薄情に見えるかな」

「まさか。ただ、翠夏には家族がいるじゃないですか」人1人の行方に、嘘をつく。真っ当な理由のわけがない。「何かあっても、私なら悲しむ人いませんし」

「私が悲しむってば。あとね、1人より、2人の方が安心でしょ?」

「心強いです、とっても」

「気持ちがこもってないなぁ」


 私たちはホームを後にする。


「とりあえず、人目につかないよう、スタンプラリーを巡ってみますか」


 先生が何を見つけたのか。もし、失踪の理由が先生ではなく巫女のほうにあるのなら、手がかりは巫女に選ばれるまでの足跡にあるはずだ。


「一色先生だから攫われた説は、完全否定?」

「あまりに失礼過ぎて、今ごろ報復を受けている可能性はあります」


 むしろ、そっちのほうが濃厚かもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る