第24話 討伐参加者

「この方は明日のゴブリン討伐に参加する剣士のブレブさんです」

 

 アイアが剣士の名前を教えてくれた。僕たちも軽く会釈しながら名前を明かす。


「召喚士のマークです」

「撃墜士のフェレスにゃ」


 フェレスも皆みたいに職業を語ったね。そういえば撃墜士というのは初耳かも。

 

「やぁ君たちがゴブリン討伐に参加する二人だね。それにしても召喚士とは珍しい」


 ブレブが僕を物珍しそうに見てきた。ただ悪い印象ではなさそう。



「僕は今も紹介にあったブレブ。早速だけど残りのメンバーの皆も紹介するからこっちにいいかな」


 親しみやすそうな笑顔でブレブが僕たちを促した。受付嬢も仕事に戻っていったからブレブと一緒にメンバーの集まる席に向かう。


 そこにはブレブ以外に七人の冒険者がいた。まずは僕たちが名前と職業を明かし挨拶する。


「仲間が多いに越したことはない。俺はナックル。拳闘士だ」

「ユニー弓士よ」

「キリン戦槍士だ」

「マシュよ。魔法士なの」

「エペです僧侶してます」

「あ、アニンです獣使いです」


 次々と今回行動をともにする冒険者たちが自己紹介してくれた。


 獣使いという子もいるんだね。僕の生まれた国では召喚士がいたけど使い士は見なかった。


 すぐとなりには青い毛並みの狼の姿。凛々しい顔をしていて鳴くこともなくアニンによりそっている。


 集まったメンバーがそれぞれ名前を教えてくれた中、一人だけじっとこっちを睨み続けてだまり続けている男がいたよ。


 フード付きの丈夫そうな布服を纏った男だ。雰囲気的に好意的には思えない。


「アグレイ。後はお前だけだぞ」

「気に入らないな」


 残った一人が三白眼の瞳を僕たちに向けて来た。アグレイというのが彼の名前か。


 目つきが険しくあまり歓迎されていないのがわかる。


「さっき召喚士と言っていただろう。この国に使い士はいても召喚士はいねぇ。召喚士といえばプロスクリ王国に根付いた連中だ。つまりテメェは向こう側の人間って事だろう?」


 これはいずれ誰かに指摘されるかもしれないと覚悟していたことだ。プロスクリ王国とカシオン共和国はかつて敵対しており幾度も戦争に発展している。


 今でも多少は緊張感が和らいだけど冷戦状態に近い状況。しかもどちらかといえば僕の暮らしていたプロスクリ王国側の方がやる気が高く今でも挑発的行為を繰り返していると聞く。


 そういった背景がある中、僕みたいな召喚士が来たとあれば警戒されてもおかしくないかもしれない。


「確かに僕は元々プロスクリ王国の出です」

「だからそれが何でここにいるのかって話だろうが」

「別にプロスクリ王国出身だからこの国で活動してはいけないなんて理由はない筈にゃ。それにあたしだってマークと一緒にプロスクリ王国から来てるにゃ」

「そうかよ。だったらテメェも信用出来ねぇな」

「フゥウゥゥゥゥウウウウ!」

「ちょ、落ち着いてフェレス!」


 アグレイの態度に腹を立てたのかフェレスが髪を逆立て威嚇するように唸り声を上げた。


 かなり気が立っている。だけどここでこれから一緒に行動する仲間同士揉めても仕方ないよね。


「アグレイお前もだ。それに彼女の言うようにカシオン共和国は来るもの拒まずの姿勢を貫いている。そもそも二人は冒険者だ。冒険者同士の詮索は禁止されているだろう?」

「全く甘いなブレブは。そんなのがリーダーで大丈夫かよ」


 アグレイが気に食わないといった面立ちで言った。


「そもそも俺は今回のゴブリン騒動にしても何者かの関与があると見ている。例えばゴブリンロードを召喚した奴・・・・・がいるとかな」


 これみよがしに僕に顔を向けながらアグレイが語った。そうか僕はそっち方面で疑われていたのか。


「いい加減にするにゃ。あたし達はまだこの国に来て間もないにゃ。そんなことしてる暇なんてなかったにゃ!」

「そんなものどうとでも言えるだろう。だいたい犯人が素直に自分がやりましたなんて言ってくれるならこんなラクなことはない」

「そ、それなら犯人だと決めつけることも出来ないのでは? 少々乱暴に思えます」


 アグレイと不毛なやり取りを続けているとアニンが割って入り僕たちを擁護してくれた。


 獣使いの女の子だ。彼女が使役している狼も険しい顔でアグレイを睨んでいる。


「フンッ。このタイミングでわざわざゴブリン討伐にまで参加してるんだ。おまけに召喚士と来てる。疑わない方おかしいってもんだ」

「えっと、とりあえずゴブリンを召喚してないという証明なら恐らく直ぐにできますよ」


 このまま疑われ続けるのも不本意なので僕からも意見させてもらうことんした。

 

 アグレイの目つきがさらに険しくなる。


「口ではなんとでも言えるだろうが」

「口だけではないですが先ず召喚魔法というのは永久的に対象を召喚できるものではないのです。召喚している間は魔力も減り続けるので」


 普段使ってる標識召喚も用事が済めば消している。移動のために使ってる標識も召喚している間は魔力が減っている。


 パーキングエリアという変わったタイプもあるけど、あれも標識を召喚している間は魔力が減っている。中にはいったら標識が消えて減らなくなるけどね。


「馬鹿が。俺らはそもそも召喚魔法をよく知らない。お前が言ってるのが本当か嘘かもわからないんだよ」

「それならもっと確実な方法としてゴブリンを倒した後は死体は残りましたか?」


 そう問いかけると聞いていた面々が不思議そうな顔を見せた。


「アホか。死んだら死体が残るに決まってるだろうが」

「確かに普通は。しかし召喚魔法は違う。召喚魔法はあくまで異界と道を繋ぎ対象を召喚する魔法。しかも召喚された対象は例え倒されたり壊れたとしても元の世界に戻されるだけなのです」

「えっと、つまり死体は残らない?」

「はい。この世界から消え去るだけです」


 不思議そうに問いかけてきたアニンに答えた。聞いていた全員はなるほどとうなずいている。


「いや、だからそんなの口からでまかせかもしれないだろう」

「それはないわね。確かにこの国に召喚士はいないけど召喚魔法の知識は書物として残っている。その子の言ってることは私が読んだ本にも書いてあったことよ」


 ここで会話に入り込んでくれたのは魔法士のマシュだった。


 そう、確かに僕のいた国は召喚士がいることでも有名だけどその知識は書物として他国にも渡っている。


 だから魔法士なら知識はあってもおかしくないと思った。


 ただ僕が他国から来たのは確かだからこれまでは静観していたのかもしれない。どちらにせよこの助け舟である程度疑いは晴れると思うのだけど――

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