第5話 お茶の効果
次の日も午前中に標識で移動した。これでもう里から大分離れた筈だ。僕が里の連中に見つかることもないだろう。
ある程度進んでから標識を消して徒歩で移動することになる。
「シャァアア!」
「うわっと!」
途中で蛇に襲われた。この辺りに出る蛇は毒がある。気をつけないといけない。
「標識召喚・危険!」
召喚したのは黄色くて!マークの描かれた標識だ。正直これがどんな効果かは使ってみないとわからない。
「――ッ!?」
何が起きるかと思えば、上空から鷹がやってきて蛇を捕まえて飛び去ってしまった。
「うん。確かにこれは蛇にとっては危険か――」
どうやら何かしら危険な事が起きる標識なようだ。ランダム要素が強そうだけど罠っぽく使えるかもしれない。
標識で移動もしていたこともあり、魔力が減ってきた感がある。それに喉も乾いた。途中で缶のスポーツドリンクを飲んだ。ペットボトルより量は少なかったけどそれでもそこそこ魔力は回復したと思う。
空き缶は預かり所にあずけておく。パーキングエリアで捨ててもいいけど、空き缶は変わった素材で出来ている。記憶ではアルミというらしい。これはもしかしたら何かの役に立つかもしれない。
周囲を見てみると大分森の密度も薄くなってきた。獣の気配も薄れてきたか。このまま行けばもうすぐ森を出れるかも知れない。
木々をかき分けて行くと開けた場所に出た。そこで僕は見つけてしまった。大樹の幹に背中を預けて座り込んでる女の子を。
最初はただ休んでいるだけかと思ったけど様子がおかしい。息が荒くてとても苦しそうだ。
「あの、大丈夫ですか?」
放ってはおけなくて駆け寄った。頭からは猫耳が生えている。癖のある赤毛が特徴の可愛らしい女の子だ。マントを羽織り胸当てをしている。腰にはベルトが巻かれブーメランや短剣が装着されている。
「う、うぅ――」
苦しげに呻いている。何かあったのかと思い、体を注視すると足首の辺りに何かに噛まれたような痕があった。これは蛇だろうか。
だとしたら状況的に毒蛇の可能性が高い。熱も出ているだろうか。
どうしよう――毒だとしても解毒に役立つ薬は持ってないし……。
「はぁ、はぁ、喉が、乾いて――」
虚ろな瞳で少女が呟く。毒で熱があって喉が乾いているのか……。
辛そうだし水分は摂ったほうがいい。毒のことは気がかりだけど先ずは水分を補給してもらおう。
今あるのは水の入ったペットボトルが二本――そしてもう一本。うん、何となくだけど僕は倒れている少女にお茶を飲まそうと思った。
預かり所から缶を出す。蓋を開けるのも辛そうだから僕がやる。
飲み口を近づけて上げるとごくごくと喉が鳴った。どうやら飲む力はありそうだ。
すると少女の目が見開かれ缶を手にとってくれた。僕が手を放すと少女は自分の手で缶を傾けグビグビと中身を飲んでいく。
「ぷはぁ~何にゃこれ! 最初ちょっと苦いかもと思ったけど、さっぱりしてて飲みやすいしグビグビいけるにゃ!」
「えっと、気に入ってもらえたなら良かったけど体は大丈夫?」
「え?」
少女が目をパチクリさせた後、立ち上がり自分の体を確認し始めた。尻尾が生えていてそれがぴこぴこ揺れている。
「す、すごいにゃこれ! あたし毒蛇に噛まれてもう駄目かもと覚悟していたぐらいなのに。これ君が作ったの? 凄い凄いありがとうにゃ!」
少女が僕の手を撮ってピョンピョン跳ねて喜びを伝えてきた。何だか可愛らしいけど、手を取られてちょっと照れる。
でも、彼女の話していたとおりならお茶を飲んで毒が消えたってことだろうか。
ふともう一つの魂の知識が頭に入り込んでくる。どうやらお茶には解毒作用があるようだ。
そうか。それでお茶を飲んで毒が消えたんだ。中々凄い効果だと思う。
「本当に助かったにゃ。ありがとう。えっと、そういえば名乗ってなかったにゃ。あたしはフェレスだにゃ!」
元気を取り戻した少女が自己紹介してくれた。フェレスというのか。この子が家を出て初めて出会った子になる。
「僕はマーク。宜しくね。ところで君はこの森で何を? 仕事とか?」
この辺りは結構危険な森だ。女の子が一人で入るような場所ではないと思う。
「えっと、実はあたし冒険者をしているんだけどにゃ……」
僕の質問にフェレスが答えてくれた。冒険者か。そう言われてみれば装備品にそれらしさがある。
「つまり冒険者の仕事でここに?」
「それは――」
更に質問を重ねてみたけどフェレスはどこか答えにくそうだった。
するとガサゴソと枝葉の擦れ合う音が聞こえてきた。何か男同士の話し合う声も近づいてくる。
「この辺りにいるはずだ」
「さっさと捕まえて奴隷にしちまうぞ」
会話の内容がわかる位置まで近づいてきてる。何となくフェレスを見てみると怯えているのがわかった。これって――
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