第29話 索敵

 アグレイからは妙な疑いを掛けられたままなのが気になるところではあるが僕たちは先を急いだ。


 段々とゴブリンの生息域に近づいていることをブレブが教えてくれる。


「情報ではこのあたりからゴブリンがよく現れる。だが出来ればこちらが先に見つけたい。索敵が得意なタイプは斥候役をお願いしてもいいかな?」

「それならあたしが前を行くにゃ」

「う、ウルも気配に敏感です。いいかなウル?」

「ガウ」


 フェレスと一緒にアニンが連れていた狼のウルも先頭を歩いた。


 フェレスが気配に敏感なのはこれまでの旅路でもわかっている。後はアニンのウルがどの程度気配に敏感なのかといったところだろう。


「アグレイ。あんたも狩人なんだから前に出なさいよ」

「別にわざわざ前に出なくてもゴブリンが近づいてくればわかる。それよりもあの獣人だって余所者だ警戒しないとな」


 狩りを専門とする狩人も気配には敏感だ。だからこそユニーは彼に働きかけたのだろうがアグレイは相変わらずの反応しか見せない。


「別に必要ないにゃ。数だけいても仕方ないにゃ。あたしとウルで十分にゃ」

「ガウ」


 フェレスの言葉にウルが反応した。何か妙に息が合ってる気もする。


 それから慎重に億へと向かう。するとフェレスが後ろに向けて手を伸ばし止まるよう促した。


「ゴブリン特有の匂いがするにゃ」

「ガルルゥ……」

「えっとウルによるとこの先に三体のゴブリンが潜んでいるそうです」


 先ずフェレスが顰めた声でゴブリンが近いことを告げ続けてウルが唸り声を上げアニンがウルの意思を汲み取り説明してくれた。


「もう近いにゃ――」

「グルゥ」

「にゃん。確かにその方がよいかもにゃ」

「え? フェレスさんウルの言ってることわかるの?」


 ウルの声に反応するフェレスを見てアニンが質問した。確かに今は普通にウルとフェレスで会話が成立していたように思える。


「完全ではないけれどなんとなくにゃ」

「それでなんと言っていたんだ?」


 気になったのかナックルがフェレスに問いかけた。


「ウルが先に言って様子を見ると言ってるにゃ。ウルは気配を消すのも上手いにゃ。体もあたしたちより小さいから最適にゃ」


 フェレスの言うようにウルの方が密かに近づくのに有利そうだ。


「お願いねウル」

「ガル」


 そしてウルが藪の中に入り殆ど音を鳴らすことも無く向かっていった。


 暫しの間をおきウルが戻ってくる。


「ガウ」

「ついてくるよう言ってるようだにゃ」

「はい。安全にゴブリンに近づけるみたいです」


 アニンの補足も入り僕たちはウルの後に従って進んでいった。


 途中でウルが立ち止まり樹木の陰に身を寄せ僕たちを促した。


 ウルに倣い各々が木陰に身を潜め様子を探る。


「確かにゴブリンが三体いるな」

「ウルとフェレスのおかげで気づかれずに済んだ。流石だな」


 ブレブがフェレスとウルを褒めるとそれぞれが満更でもない様子を見せた。


「ここからは私なら狙えるね」

「なら私は魔法で仕留めるわ」

 

 ユニーが弓を構えマジュが杖を握り自信を覗かせる。


「アグレイ。お前も遠距離から狙えるだろう?」

「……わーってるよ」


 ナックルに言われアグレイが腕に仕込んだクロスボウをゴブリンに向けた。


「――忌々しいゴブリンめ逝きな!」

「焼き尽くしてあげる――ファイヤーボルト!」

「オラッ!」


 三人による同時攻撃。ユニーの矢はゴブリンの居所を射抜き、マジュの魔法は魔物の身を焼いた。


 そしてアグレイの放ったボルトは――残ったゴブリンの肩に命中。


「グギャ!」


 ゴブリンが悲鳴を上げ地面に転がった。だが致命傷には至らず立ち上がりこちらを気にしながら逃げ出そうとする。


「取り逃がすと厄介だぞ!」

「任せて――標識召喚・徐行!」


 逃走を試みたゴブリンの近くに標識が立つ。するとゴブリンの動きが鈍重になった。


「今だ!」

「ガウガウ!」

 

 僕の合図に反応しガルが動きの遅くなったゴブリンに飛びかかり首に噛みついた。そのまま地面に転がし唸り声を上げながら噛み続けるとゴブリンがピクピクと痙攣し動かなくなった。


 どうやら上手く仕留めたようだ。ゴブリンは群れで行動するから逃げ出すと厄介らしいし何とか助かった――

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