第10話 国境を超えたい
朝が来て僕とフェレスはパーキングエリアから出て隣国目掛けて出発した。
猛獣の多い地帯は抜け街道に出てからは危険はなかった。ただフェレスに追手が差し向けられている可能性もあった為、標識召喚で一気に移動することにした。
頭の中のリストに新しく最低速度80kmというのが追加されているのがわかったので折角だから利用することにする。
「きゃあ! 速い速い! 凄いにゃこれ!」
50kmでも十分速く感じたものだけど、80kmはこれまでと規格外に感じる。最初は景色がビュンビュン流れているように感じたものだけど慣れたらわりとゆっくりに感じられるようになった。
それでも速いのはよくわかる。何せあっという間に国境の砦が見えてきた。小高い丘の上にあるのがそれだ。
流石にこのまま近づきすぎると目立つので標識を消して歩いて砦に向かうことにした。
「でも、このまま言って抜けさせて貰えるかにゃ?」
「う~ん――」
冷静に考えてみたらそこが問題だった。ただあの奴隷商人よりは僕たちの方が早く辿り着けている。
ここまで手配書が回ってきていない可能性も高そうだ。
「出来るだけ顔を隠して砦まで行ってみよう」
砦は幅の広い川を見下ろすように設置されている。橋を通らなければ先には進めない。当然橋の前にも見張りは立っているだろうし砦からも監視されているだろう。
基本的なことだが橋に行く前に先ずは砦に顔を出す必要がある。そこで手続きを終わらせてから橋を渡る許可が出るのである。
「フェレスは僕の後ろで出来るだけ目立たないようにしていて欲しい。話は僕の方で聞いてみる」
正直まともに通るのは難しいとは思ってる。商人などでなければ表立った方法で国境を越えることは出来ない。
ただし裏の方法がないわけではない。いわゆる賄賂という物だ。ただ当然これはすぐには無理だ。
だけどどの程度かを知っておけば対策を立てることは可能かもしれない。ここに来るまでに獣を倒して手に入れた素材もある。
丘を上り砦までやってきた。扉横に立っていた無愛想な兵士が僕たちに気が付き訝しそうに眉を寄せた。
「何だお前たちは?」
「その、実は国境を越えたいと思ってまして。その手続について教えて頂けたらと」
「何だと?」
兵士が怪訝そうな顔を見せる。
「何故国境を越える?」
「僕たちは旅人で流れ流れてここまでやってきました。そろそろ次の土地を目指したいなと思ってまして」
一見すると無謀そうな話だが、実際に世界中を旅して回ってる人はいる。大道芸人だったり吟遊詩人だったりがそうだ。
だから場合によっては芸人として話を通してもいいと思ってる。標識召喚はこっそりやればそれっぽく見せることも可能だろう。
「旅人だと? 旅をして何をしてるんだ?」
「大道芸です。芸で路銀を稼ぎながら旅してる身で。ですがこれでもちょっとした物なんですよ」
ちょっとしたものとはある程度芸に自信があるという意味もある。大道芸人でも人によっては賄賂を渡しても十分な程の稼ぎがあるからだ。
「ふん。芸人だと益々怪しいな。まさか貴様ら最近この辺りに出没している盗賊の仲間ではないだろうな?」
「え?」
しかしここで僕にとって意外でありありがたくないワードが飛び出してきた。
「大体何で顔を隠している? やましいことがあるからではないのか?」
「そういうわけでは……」
「とりあえず名前と素性を聞かせてもらおうか。場合によっては徹底的に調べさせてもらうぞ」
「し、失礼しました! これにて失礼します! 行こ!」
「あ、待ちやがれ!」
この状況で待てと言われて待つ人はいないだろう。フェレスの腕を掴んで踵を返して疾駆した。
兵士が仲間を呼ぶ声がした。完全に盗賊だと疑われてしまっている。逆に厄介事が増えてしまったかもしれない。
「丘の途中で標識を出す」
幸いまだ魔力は残ってる。僕は最低速度50kmの標識を召喚しフェレスと一緒に掴んでその場を離れた。
背後から待てという声や馬の鳴き声が聞こえてきたけど、馬では標識の速度についてはこれない。
途中で街道を外れ森に入って兵士を撒いた。
はぁ顔は見られてないと思うけど、この後どうしようかな――
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