第8話 同行の誘い

「標識が何だかよくわからないけど凄いことはわかったにゃ」


 途中フェレスに説明するが全てを理解するには至らなかったようだ。標識という物がそもそもこの世界にはないからね。


 似たような物で言えば道標だけど標識に比べたら簡素な物だ。


「そもそも何を書いてあるかがわからないにゃ」


 フェレスが困った顔を見せる。今僕が使ってる標識は最低時速50kmの物だが、描かれてる数字はもう一つの地球という世界で使われていた物だ。


 僕が普段利用している文字とは当然違いこちらの世界では馴染みのない文字なのである。


 これに関しては記号についてもそうだろう。どれも僕の暮らしてるこの世界では馴染みがない物ばかりだ。


 それでも僕には意味が理解できる。魂に残された記憶と知識のお陰だ。


「それにしても速いにゃ。早馬でもここまでは無理にゃ。まるでユニコーンに乗ってるみたいにゃ」


 フェレスが感嘆の声を上げた。ユニコーンは角の生えた馬で、魔力で脚力を強化するのが馬よりも長けている。


 そのユニコーンで速度は大体30~40kmぐらいと言われている。つまりこの速度は実はユニコーンより速い。


「ところでフェレスは今回の件、奴隷にされそうになった理由があったりするの?」


 気になっていたことを聞いてみる。話を聞く限り冒険者ギルドの対応も含めて強引過ぎると思ったからだ。


 依頼の失敗も仕組まれたことなら、そうなる原因がある筈だ。


「実はハーゲン公爵家の長男にしつこく言い寄られていたにゃ」

「言い寄られていたって求婚とか?」

「違うにゃ。奴隷にしてやるとかありがたく思えとかそういう話にゃ……」


 フェレスの声が細くなった。それにしてもそんなことを堂々と言うとは。


 ただし相手がハーゲン公爵家ならありえる話だ。里でも話にはよく出ていた。ハーゲン家は元から強引なところがある家系として知られていたが、長男のセグス・ハーゲンはその中でも輪にかけてわがままで強欲だと。


 だから欲しいと思ったものは金と権力に物を言わせてどんな事をしてでも手に入れるタイプだったようだ。


 ただし金払いだけはいいらしく、専属の召喚師として仕えたいと考える人は多かった。


 もっともセグス自体がかなりの魔法の使い手らしく魔法適正は爆炎だという。この適正は儀式で判明する。つまり召喚師でいう召喚適正と意味合いで言えば同じだ。

 

 だからセグスが召喚師を必要としているかは微妙なところかもしれない。


 それはそれとして問題はフェレスだ。


「それは散々だったね。もしかして失敗した依頼はハーゲン公爵家からの依頼だったの?」

「違うにゃ。むしろそうだったら受けなかったにゃ」


 僕も何となく聞いただけでフェレスの言い分ももっともだと思う。


「受けたのはダッツ子爵家の依頼だったにゃ」

「あぁ……」


 それで僕の中では得心が言った。


「もしかして何か知ってるにゃ?」

「その手の噂は耳に入ってくるからね。ダッツ子爵家は元々はハーゲン公爵家の領地の一部を割譲された家臣が治めた土地なんだ。だからダッツ家はハーゲン公爵家の傀儡みたいなものって言われてるんだよね」

「そ、そうだったのかにゃ……」


 フェレスがショックを受けていた。騙されていたと今になって気がついたみたいだ。


「フェレスはこれからどうするの?」

「うぅ。もう完全にお尋ね者になってしまったにゃ……」

「それなら隣のカシオン共和国に一緒に行く? 国が変わればあいつらも追ってこれないし、カシオン共和国は種族間の差別が少ない国としても有名だよ」

「でも、冒険者ギルドから手配書が回るにゃ……」

「確か国が変われば冒険者ギルドと言ってもよほどの事がない限り強制送還は出来ないはず。フェレスは不当な借金を負わされた末の冤罪だし事情を説明すれば判ってもらえるかも知れないし、このままこの国に残るよりはマシじゃないかな?」


 そうフェレスに提案する。何でここまでしてあげてるのか……と自分でも思うけど、やはり聞いてしまったからには放ってはおけない。


 それに僕は差別的なこの国の風潮も嫌いだ。だからせめてもの抵抗みたいな物でもある。


「――うん! 言われてみれば確かにそうにゃ。あたしマークと一緒に行くにゃ!」


 どうやら僕の提案に乗ってくれたようだ。それなら良かった。実は一人旅はちょっと寂しかったというのもあるけど。


「そういえばマークは冒険者にゃ?」

「違うよ~僕はただの召喚師さ」

「勿体ないにゃ! あれだけの腕があるならマークも冒険者になるべきにゃ。そうするにゃ!」


 今度はフェレスから提案されてしまった。でも冒険者か……どっちにしても暮らしていくには仕事する必要があるし考えてみてもいいかな――

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