災いの少年
昔々、崩壊の時が迫る世界に一人の少年がいました。
少年は天涯孤独の身で長い間ずっと独りぼっちでしたが、寂しさを感じた事は一度もありませんでした。
独りぼっちである事を除けばありふれた日常を過ごしていたある日、少年は不思議な力に目覚めました。
突然目覚めた身に覚えの無い力の存在に少年は強い恐怖心を抱きました。
しかしある時、同じような力を持つ人が人助けをしている姿を目にした少年は恐怖心を捨て、自分の力も人助けの為に使えるのではないかと考えるようになりました。
どうすればうまく力を使えるかを考えながら練習し、力の使い方が少しだけ分かってきた頃、少年は人助けの為に力を使い始めました。
しかし少年が助けた人は何故かすぐに逃げ出してしまうのでほんの少しだけ感謝される事を期待していた少年は落ち込みましたが、いつかは感謝される時が来るかもしれないと前向きに考えました。
少年が力を使って人助けを続けていたある日、少年と同じような力を持つ人々が少年を「災い」と呼び、突然襲い掛かってきました。
何故、と少年が問い掛けても全員お前が「災い」だからだ、としか答えませんでした。
わけが分からないまま少年は自分に襲い掛かってくる人々から逃げ回り、時には望まない戦いを強いられる事もありました。
逃げ回りながら少年は何故自分が「災い」だと呼ばれ、同じような力を持つ人々に襲われるのかを知る為に「触れた者に真実を教えてくれる石版」を必死で探していました。
自分が「災い」では無いと言う真実を教えてくれるかも知れない、という淡い希望を抱きながら少年は逃げ続けました。
しかしその希望は逃亡の果てにようやく見つけた石版が教えた真実によって容赦なく砕かれてしまいました。
少年が持つ力は世界に崩壊を齎す「災い」そのものであり、同じような力を持つ人々によって少年が殺される事で崩壊しつつある世界が救われる。
それが嘘偽りの無い真実であり、少年が生まれた意味そのものでした。
全てを知った少年は絶望のあまり自ら命を絶とうとしましたが、それでは世界が救われないのではないかと思い留まりました。
だったら、と少年は逃げるのを止めて自ら同じ能力を持つ人々の前に姿を現すとあらん限りの声で叫びました。
殺せるものなら殺してみろ、と。
挑発とも取れる少年の言葉に触発された人々はようやく本性を現したか、と怒りや憎しみの感情を剥きだしにして少年に攻撃を仕掛けました。
少年は最低限の回避や反撃をしつつも避け切れなかったふりをして殆どの攻撃をその身に受け続け、最後は胸を貫かれました。
皮肉な事に少年に止めを刺したのは少年が力を人助けの為に使おうと思ったきっかけを作った人でした。
驚きの余り少年は目を見開きましたが、すぐに目を細めると小さく掠れた声で有難う、と言いました。
それが少年の最後の言葉でしたが、誰の耳にも届く事はありませんでした。
少年が絶命した事で「災い」が消滅したからなのか、世界の壊れかけていた部分がゆっくりと修復され、本来あるべき姿に戻っていきました。
それと同時に人々は力を失ってしまいましたが、世界を救えた事を心から喜びました。
しかし世界を救う為に少年が犠牲になる事を選び、敢えて悪役を演じていた事に誰一人気づきませんでした。
短編集 等星シリス @nadohosi
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