歴史の「If(もしも)」を味わう醍醐味アリ

 史実では、昭和20年8月9日にソ連が「日ソ中立条約」を一方的に破棄して参戦したことが、日本降伏の決定的な打撃になったとされています。この物語は、太平洋での戦いに日本が勝利を納め、件の中立条約が二度自動更新された後、効力が失われた昭和31年から32年にかけての日本を舞台にしています。そのとき、一体、何が起きたのか?
 詳細はネタばれになるので省きますが、物語が問い掛けてくるものは単なる寓話で済まされないくらい今日、重みを増しています。ソ連の後継国家であるロシア、中国にそれぞれ野心的な指導者が登場し、対外膨張の意思をあからさまにしている現在、物語に登場する人々の向こうに近未来の我々の姿を思い浮かべるのは、それほど大げさではないように思えてくる——というのが読後感です。
 個人的には三十数年に檜山良昭さんの「@@@本土決戦」シリーズを愛読しました。作品を通して、歴史の「If(もしも)」に思いを馳せる面白さを味わい、同時に歴史が現代に問い掛ける奥深さも学ばせてもらったように思います。そんな若い日のことを思い出させてもらえるひと時にもなりました。