三
乱軍の中に気を失った
李陵にとって奇異な生活が始まった。家は
李陵には土地は与えられない。単于
一度単于は李陵を呼んで軍略上の示教を
単于の長子・
天漢三年の秋に
その左賢王に打破られた
この知らせが李陵の耳に入ったのは半年ほど後のこと、辺境から
めちゃくちゃに彼は野を歩いた。激しい憤りが頭の中で
今度の場合には限らぬ。今まで我が一家はそもそも漢から、どのような扱いを受けてきたか? 彼は祖父の
陵の叔父(李広の次男)
その晩、彼は単身、李緒の
翌朝李陵は単于の前に出て事情を打明けた。心配は
まもなく問題の
翌、
初め一概に
かつて先代の
彼の妻はすこぶる
陵が
元来蘇武は平和の使節として
しかし、はからずも自分が
感動が、陵の内に
陵の
この男は何を目あてに生きているのかと李陵は怪しんだ。いまだに漢に帰れる日を待ち望んでいるのだろうか。蘇武の口うらから察すれば、いまさらそんな期待は少しももっていないようである。それではなんのためにこうした
最初の感動が過ぎ、二日三日とたつうちに、李陵の中にやはり一種のこだわりができてくるのをどうすることもできなかった。何を語るにつけても、
十日ばかり滞在したのち、李陵は旧友に別れて、
李陵は
南に帰ってからも、蘇武の存在は一日も彼の頭から去らなかった。離れて考えるとき、蘇武の姿はかえっていっそうきびしく彼の前に
李陵自身、
飢餓も寒苦も孤独の苦しみも、祖国の冷淡も、己の苦節がついに
蘇武の存在は彼にとって、崇高な
数年後、今一度李陵は
李陵は
その年の二月武帝が崩じて、
公式の宴が終わった後で、李陵・衛律らばかりが残って牛酒と
会が散じて別れ去るとき、任立政はさりげなく陵のそばに寄ると、低声で、ついに帰るに意なきやを今一度尋ねた。陵は頭を横にふった。
後五年、昭帝の
別れに臨んで李陵は友のために宴を張った。いいたいことは山ほどあった。しかし結局それは、
歌っているうちに、声が
この世に生きることをやめた彼は書中の人物としてのみ
稿を起こしてから十四年、
完成した著作を官に納め、父の墓前にその報告をするまではそれでもまだ気が張っていたが、それらが終わると急に
前に述べた
すでに早く、彼と親しかった
※文中の「
李陵 中島敦/カクヨム近代文学館 @Kotenbu_official
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