「本当に阿呆なやつだ。こんなものではその場しのぎに過ぎないと、わかっているだろうに」そう薬売りは、新妻に言った。焚けば死者と出会えると言われる、返魂香。魅せられたのは、はたして。立ち込める白霧と、薬と香の香り。妖しくも幻想的、それでもどこか現実みのありそうな、今にでも匂いたちそうな短編です。
作者さま曰く、「微ホラー」らしい。こんなに美しいホラーがあるだろうか。冒頭の仔細な情景描写は、自然と読み手の心を奪っていく。まるで自分がその場に立っているかのような追随体験を、作者さまはいとも簡単に提供してのけた。同じ高校生の紡ぐ言葉とは信じがたい。日本語が好きだと自負する私が、赤面するくらいに。圧倒的な表現力と構成力。ぜひ一度読んでみてほしい。
徹頭徹尾の完成品です。人の悲哀を紫煙の内に、ふわりと包み込みながら描き出す。その光景と、文字運びの美しさたるや、凄烈さたるや。正座をして、背筋を正して。丁寧に受け取るべき物語でした。これからもきっと終わることなく続く、自らへの欺きのなかで生きてゆく彼を、その紫煙は見守り続けることでしょう。
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薬師の男は、愛する妻と共に山中に暮らしていた。幸せな二人の生活には、しかし徐々に暗雲が立ち込めはじめる。迫る戦火に、売れるはずの薬は思うように売れずじまい。妻への思慕と現実のはざまで、男は苦悩していた。しかし愛する妻を心配させるわけにはいかない。男はその日、久しぶりに妻を誘い出かけたが…。精緻な筆致で描かれる幻想的な世界感。ひとときの幸福を与えてくれるという不思議な「返魂香」の正体とは?愛する妻のために、男は何をするのか。これはどこまでも、魅せられる物語。
主人公は山間の小さな庵に住む薬師。彼は薬が売れずに困っています。それは巷で返魂香という不思議なお香が流行っているせいなのですが……美しい描写とともに語られる不可思議な話。思わず物語の世界に引き込まれて最後まで読んでしまうこと間違いなしです!ホラーは苦手だけど、不思議な話は大好きと言う人におススメ。中華風ということもあり、登場するものが和風とは一味違うところも見どころの短編です☆
このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(284文字)