第10話

   

 どうやら『高校生メーカー [Ver. N]』は、永多岐市中央高校をモデルにするどころか、永多岐市中央高校に通う本物の生徒たちを操作するゲームだったらしい。

 まさに神や悪魔の所業だ。なるほど「神にも悪魔にもなれる」という謳い文句になるわけだ。

 しかも、俺以外にも同じゲームで育成失敗したプレイヤーがいるはずだ。少なくとも他に三人、前途ある若者が死んでいるのだから。

 さらに『高校生メーカー』には複数のバージョンがあるようだから、被害の対象は永多岐市中央高校だけに限らず……。


「いや、今はそれよりも、他に考えるべき点があるだろ」

 言葉にすると、思考がはっきりしてきた。

 問題なのは、ゲームで操られたのが死んだ五人だけではないこと。例えば大谷直哉のように、無事に卒業してしまえば、あのゲームの関与は不明のまま。それがわかるのは、プレイヤー本人のみだ。

 いや、たとえ無事に卒業できたとしても、その後の人生まで見ていけば案外わかりやすいかもしれない。

 ほら、ちょうどピッタリの実例がいるではないか。それ以前やそれ以後と比べて、高校時代だけ別人みたいに優秀だった男……。

 つまり、この俺だ。


 高校時代を他人に操られたせいで、分不相応な大学に入ってしまい、結局このざまだ。他に夢があってバイトするならばまだしも、何もないのに、ただダラダラとフリーター暮らし……。

「そういえば、あのゲーム。『フリーター』って選択肢もあったんだっけ」

 自分の呟きを耳にして、ふと疑問に思う。

 俺をプレイしたやつは、俺の「将来の夢」として何を選んだのだろう、と。




(「高校生メーカー [Ver. N]」完)

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高校生メーカー [Ver. N] 烏川 ハル @haru_karasugawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画