草花に愛された女の子

 初日はホームルームと始業式だけが行われた。セレスティアはそそくさと自室に帰る準備をしていたが、シャーロットに声をかけられた。


「ティア、あの、もしこの後予定がなければ、私たちとお茶でもしない?」

「ですが、私が参加してもよろしいのですか?」


(私と言っているから、シャーロット様以外も参加されるということよね……)


「もちろんよ、私の友達でしょ! それに他の人とも仲良くなってほしいしね」

「お心遣いありがとうございます」


 由緒正しき学校なだけあり、お茶の飲める場所は沢山ある。もちろんセレスティアが、アリアネル学園に入学してからお茶会に誘われたことは一度もないが。


 もちろんセレスティアも貴族の端くれではあるため、社交界にも参加している。……しているのだが、誰かに目をつけられることも、印象に残るようなこともしていない。悪目立ちすることをセレスティアは一番恐れていたからだ。エスコートも兄に頼むほどの徹底ぶりであった。


「じゃあ今日は天気もいいことだし、ガーデンが空いていればそこでやりましょう」

「ガーデン……」

「あら」


 エメラルド色の瞳は、宝石が入ったかのようにきらりと輝いた。


「ガーデン、好きなのかしら?」

「あ、えっと、、好きです……。ただ一人だとどうしても入り辛くて……」

「じゃあティアの初ガーデンということね! 尚更楽しみだわ」


 隠しきれない笑みを浮かべながら、少し頬を赤らめるセレスティア。パーツがまるっとしていることも相まって、より幼く見える。


「本当に小動物みたいね、ティアは」

「そんなことありません!」


 2人の間でふふっと微笑みがもれた。


(なんだか、私も少しだけ仲良くなれた気がしてきたわ)


 そんな2人を微笑ましそうにみつめるゼファーと、その隣に立つレイ。


「お茶会ですが、僕とゼファー様も参加しますので、よろしくお願いします」

「そうなのですね、よろしくお願いします」


(ゼファー様とレイ様も来るなんて、緊張しそうだけれど、失礼や無礼がないようにしないと)


「じゃあ早速向かいましょう! お茶会の準備はうちの侍女達がやってくれてるはずよ」

「ありがとうございます、楽しみです」


 ゼファーとレイが参加するという事実に、体をこわばらせていたセレスティアだったが、それよりもシャーロットとガーデンでお茶会がだからことの方が何倍も嬉しかった。


 教室を出て、廊下を歩き、窓から見える花を愛でる。ガーデンに行く足取りも心なしか軽いように見える。


 ガーデンは中庭を抜けた場所にある。外から中が見えないよう、木々や花などの植物が生い茂る。人工的に作られた入り口から伸びるレンガの小道に足を踏み入れる。


「わぁ……」

「ふふっ」


 この世界のすべての花がそこにあるかのように、所狭しと花や植物がセレスティアを歓迎していた。


「……」

「どうしたの、ティア……?」


 心配そうに顔を覗き込むシャーロット。


「あまりにも美しくて、感激してしまっただけです」

「あら、そうなのね!」

「このガーデンを作り上げた方々は、どれほど苦労をしたのかと思うと、感動してしまったんです」

「ふふ、ありがとう。実はここの草花は私が育てたの」

「えっ……」


 シャーロットは一歩先にレンガの小道を、令嬢らしからぬ軽快なステップを踏んで、セレスティア達に振り返る。


「私は草花に愛された女の子なの」


 その笑顔は彼女を照らす夕日よりも、燦々と明るく昼間の太陽のようだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪女と名高い公爵令嬢が、なぜか私のことをヒロインと呼び、自分の婚約を破棄しようと目論んでいるので阻止します 梅雨日和 @tsuyuhiyori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ