最終話
探した姿は予想どおり台所にあって、夕飯の支度に取り掛かっていた。
「ただいま」
「おかえり。無事済んだか」
尚隠は手を洗う私を一瞥して、フライパンを揺する。茄子の味噌炒めか、ふわりと香ばしい味噌の香りが立った。
「うん。今年もええ発表会だったわ。みんな一生懸命、楽器叩いとった」
思い出すと潤みそうになる目頭を押さえ、必要な皿を把握するため鍋の蓋を開ける。煮込まれた冬大根と手羽元も甘辛い、食欲をそそる匂いだ。あとは味噌汁と、漬物くらいか。
「最後、教室に帰ってから子供達に『がんばりメダル』を配ったんよ。余分に二個作ったんも、ちゃんとなくなっとったわ」
「あの子らもがんばってくれたけえ、ちょうどええな」
笑った尚隠に頷いて同意し、食器棚へ向かう。
あれから一ヶ月ほど経ったが、彼女が私達の元に姿を現すことはない。ただあの兄弟は、今もたまに園の活動に参加しているらしい。満たされるまで、楽しんでいけばいい。
「子供は、幸せな方がええけえね」
「大人もな」
続いた声に、汁椀へ伸ばす指が止まる。
「ほんに、そうね」
再び嵌まった左手の指輪に笑んで、今度はちゃんと掴んだ。
(終)
のこされたこどもたち 魚崎 依知子 @uosakiichiko
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