番外編「オカルト雑誌『アメジスト』特集記事」

36:緊急特別企画~暗黒城結子先生インタビュー~

 漫画単行本がショート動画投稿アプリの有名インフルエンサーによって取り上げられたことにより、現在オカルトファンを中心に人気を集めているホラー漫画家・暗黒城結子先生。

 今号の「アメジスト」では単行本の重版を記念して、弊誌連載作の担当編集者Oによる暗黒城先生へのインタビューを急遽お届けします! 

 デビュー以来五年にわたって魅力的な作品を生み出し続ける創作の秘密や今後の目標まで、様々なお話をうかがいました。



     ※  ※  ※



――まずは単行本重版、おめでとうございます。


 ありがとうございます。最新の単行本でも発売したのが一年以上も前ですから、正直急に重版が掛かったのが嘘みたいで、自分でもまだ信じられません。


――暗黒城先生の単行本は、インターネット上でインフルエンサーの方が紹介動画に取り上げたことで、一気に人気を獲得しました。この点に関しては、どのようにお考えですか。


 正直申し上げると、大変申し訳ないのですが、私の単行本を紹介してくださったショート動画配信者さんのことは、これまでお名前を存じ上げておりませんでした。動画のたぐいを視聴すること自体はよくあるのですが、大抵漫画のネタ探しのために心霊系やオカルト系のものばかりチェックしているので……。

 でも取り上げてくださったことがきっかけで、沢山の方に漫画を読んで頂けたわけですから、本当に感謝しています。



――「漫画のネタ探しに心霊系やオカルト系の動画を視聴している」というお話でしたが、作品制作に当たっては普段どのようなものを参考にしてらっしゃいますか。


 まずは今も言った通り、心霊/オカルト関連の動画やインターネット掲示板など、Web上に投稿された怖い話ですね。他には実話怪談の本やホラー小説も参考にしますし、「アメジスト」をはじめとするオカルト雑誌にも当然目を通していますよ。

 それから心霊スポットで、直接行ける距離にある場所なら、スケジュールに都合をつけて現地取材することもあります。


――心霊スポットの現地取材は、危険なのではありませんか。


 そうですね……やはり危険ですし、取材していて恐怖を感じることもあります。

 実は私、かなり霊感が強くて、霊の類がえてしまう体質なので。これまでにも取材先では、もう何度も怪異みたいなものと出くわしたりしています。ただ幸いにして、いつも無事で帰ってこられていますが……。


――そうした取材で体験した出来事も、先生の漫画には反映されていますか。


 はい、大いに反映させています。とはいえ実話怪談などもそうですが、じかに体験した怪奇現象を、そのまま漫画で描いていることはありません。あくまでベースになる要素を抽出し、それを元にお話し作りにかしている感じです。

 ……いや、本当ですからね? 本当に幽霊とか視えちゃうんですから私。なんか凄く可哀そうな人を見るような生温なまぬるい視線を感じますけど。



――暗黒城先生が現在の作品制作スタイルを取るに至ったのは、何か理由があるのでしょうか。


 そもそも私、本当はあまり漫画のお話作りが得意ではないんですよ(苦笑)。

 実は昔、ホラー漫画家としてデビューする以前は、少女漫画家を目指していて……。


――暗黒城先生に少女漫画を描いていた時期があったのですか? 


 いや何とぼけているんですか、知っているくせに。Oさん(担当)には以前、その辺りのことは全部話したじゃないですか。


――失礼しました。それで? 


 えーっと……それで、当時は他の出版社さんに少女漫画を描いて投稿していたんですけれど、新人賞に何度応募しても引っ掛からなくて。応募先の編集部からもらえる講評を読んでみると、ほとんど毎回「ストーリー作りに難点がある」って書かれていたんですよね。キャラや筋運びにリアリティがないせいだ、とか。

 ただそうは言われても、じゃあ少女漫画に合いそうなリアリティある恋愛ストーリーってどう描けばいいんだろうって、そこでまた凄く悩んでしまって。そういうものとあまり縁がない人生ですし……。


 …………。


(※ひととき沈黙が生まれる)


――先生、恐れ入りますがインタビューなので、黙り込まないで頂けますか。


 す、すみません。

 とにかくそういうわけで、リアリティが足りないのなら、やっぱり自分で実際に体験できそうな出来事を取材したり、他の人の経験談を詳しく参考にしようかなあと考えたんですよね。そうすればもっと迫真性があるストーリーの漫画が作れるんじゃないかなと。まあその結果、漫画のジャンルも応募先も、当初と随分ずいぶん変わっちゃったんですけど……。


――実際に体験できそうな出来事や体験談を参考にするなら、活動ジャンルは少女漫画のままでも良かったのでは。


 ……だから、誰かと恋愛したりするより、幽霊と遭遇したりする方が、私には体験しやすそうな出来事だったんですってば。言わせないでください悲しいから。



――ところで、少女漫画投稿時代から同じペンネームで描いてらっしゃるのですか。


 いえそれはもっとキラキラしたペンネーム使っていましたよ昔は! 

 ていうか「キラキラじゃなくダークな感じに変えませんか」って提案してきたの、アメジスト編集部でしたよね? 昔のペンネームだと、あまりホラー漫画家らしくないからって。

 正直今からでもメチャクチャ変えたいですよ今のペンネーム! 


――折角そのペンネームで売れたのに、今から変えたらブランド力がリセットされてしまいますから、筆名変更は止めてください。重版する単行本の売上にも関わります。


 もう、冗談じゃありませんよ……なんかこのペンネームのせいで、ネット上じゃ私に凄い誤解したイメージとか持っている読者さんもいるみたいだし……。



――それはさておき単行本が話題になったことで、何か身の回りに変化はありましたか。


 まだほとんど変わったことはありません。

 でもしばらくして印税が入ってきたら、そのぶんいくらかはアルバイトのシフトを減らせるんじゃないかと思っています。そうすればネーム作りや作画に費やす時間を増やしてクオリティの向上を図れますし。

 あとは睡眠時間をもう少し増やして寝不足を解消すれば、体調も管理しやすくなるんじゃないかなと、期待しています。どうしても原稿を描いていると、私は夜型になってしまうので。夜食にインスタントラーメンを食べる機会が多いせいもあって、塩分の摂取量が増えていることまで含め、よく身近な人から心配されるんですよね……。

 ああ、それから自宅で使っている洗濯機も古くなってきたので、もっと単行本が売れたら買い替えられるのになあと思っています。

 若干支払いが遅れて滞納気味の年金も、さっさと納めて気楽になりたいです。


――なかなか生々しい話ですね。さて、それでは最後に読者の皆さんへのメッセージと、暗黒城先生の今後の目標を聞かせてください。


 沢山の皆さんに漫画を読んで頂けて幸せです、本当にありがとうございます。

 このままある程度人気が継続すれば、また新しい単行本が出せるかもしれません。まだ貧乏で餓死したくないので、どうかお買い上げ頂けると幸いです。

 とりあえず今後の目標としては、健康に気を付けて生きていたいです。

 あとペンネーム変えたい。


――ペンネームは変えないでください。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。


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霊視のあとは、絵解きの時間。 坂神京平 @sakagami

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