第12話 キュラディア村収穫祭(1)

 フルーリー伯爵領で天候不順が続くのとは打って変わって、リーズたちが住んでいるキュラディア村は晴天に恵まれていた。

 昨年よりもさらに実りをつけた穀物や野菜たちが、畑で今か今かと収穫の時を待っている。


「セリアおばあちゃんっ!」

「あ~リーズかい。おはよう」

「おはよう! 今日収穫できるってほんと?!」

「ああ、夏野菜が立派に育ったよ~畑を一生懸命耕してくれたリーズのおかげだね~」

「おばあちゃんの教え方が上手なのよ!」


 リーズがこの村に来てから数ヵ月が経過し、彼女はだいぶこの村に慣れてきていた。

 村人たちもリーズとの関係をうまく築けており、ここの風土のおかげか、リーズも当初より明るく前向きに成長している。

 畑に足を踏み入れてハサミを野菜の茎部分に入れると、ころんとリーズの手のひらに赤いトマトが入って来た。


「大きいっ!」

「立派だろ~! ここの土地は環境がいいからよく育つんだよ」

「きちんと間引きして栄養をあげたからもあるの?」

「ああ、そうだよ。全部残すんじゃなくていくつかに絞ることで甘く大きいトマトに成長するんだ」


 リーズはベンチに座って見守るセリアと話しながら、持っていたカゴにどんどん収穫したトマトを入れていく。

 さらにその数個横の畝にはナスが植えられており、それにも手を伸ばす。


「あ、ナスは棘があるから気をつけるんだよ~!」

「は~い!!」


 言われた通りに棘に気をつけながら、ナスも収穫していくと、カゴが持てないほどにいっぱいになる。

 替えのカゴを取りに行こうとベンチのほうへ向かっている途中で、家のほうから声がした。


「リーズ~!!」

「……? あ、キャシーさん!」

「収穫を終えたらセリアおばあちゃんと一緒に集会所まで来てくれるかい?」

「わかりました~!」


 大声で返事をすると、リーズは急いで残りの野菜を収穫する。

 結局カゴ三個分になった野菜は村のみんなに配るために、小さなカゴに仕分けして倉庫に保管することになった。



 キャシーに呼ばれて集会所に向かうと、そこには村人皆が集まっていた。

 やれそちらの畑はどうだ、酒造の調子はどうだ、工場の機械は直ったのか、など口々に談笑している。

 すると、そこに遅れてニコラがやって来る。


「みんな揃ってるか?」

「ニコラ、リーズもちゃんと連れてきたよ」

「ありがとう、キャシー! じゃあ、みんな今日は雨が降りそうだから早めに行こうか」


 口々に皆返事をすると、列を作って村の一番大きな道路を歩いていく。


「どこに行くの?」

「村の守り神様の樹木だよ」

「守り神様?」

「ああ、土地神様に今年も無事に収穫できたって告げるんだ」


 リーズがこの村に来て読んだ本に確かそのようなことが書かれていたことを思い出す。

 キュラディア村は土地神として大きな樹木を信仰している。

 昔からの伝統が強く残るこの土地ではいくつかの祭がおこなわれているが、収穫祭もその一つだった。


「夏の収穫祭では取れた野菜と、あと土地神様の好きな桃を捧げる」


 キャシーは持っていたカゴから桃を取り出すと、ほら、と言ってリーズに見せる。

 それはもう立派な桃で、ふわっと甘い香りが鼻をくすぐる。


 やがて土地神様の樹木の前にたどりつくと、皆それぞれ収穫物備えていく。

 そしてリーズがセリアの代わりに先程採れたナスとトマトを祭壇に備えに踏み出したその時、どこからか唸り声が聞こえた。


「な、なんだ?!」

「なっ! あれは魔獣じゃないか?!」


 魔獣は凄まじい勢いでリーズのほうへと突進してきた。


「リーズっ!!!!」


 ニコラが急いで剣を抜きリーズに駆け寄るも、魔獣の爪が一歩先にリーズの身体を襲っていた──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る