第9話 初めての畑仕事

 リーズがキュラディア村で暮らすようになってから一ヶ月が過ぎようとしていた──


 村の暮らしにも段々と慣れてきた彼女は、何か村の役に立てないかという思いで村を歩き回ってみる。


(村で何か私ができること……いつもお野菜やお肉をもらってばかりだし……ん? あれって)


 リーズの視線の先にはいつも親切に野菜を届けてくれるお年寄りの女性がいたのだが、どうにも様子がおかしい。

 腰に手をあててとても顔を歪めており、しばらくするとそのまま土の上に座り込んでしまった。


「セリアおばあちゃん!!」


 リーズは駆け寄ると妙齢の女性が、リーズちゃんというように声をかけてくる。

 どうやら長年の畑作業の影響で腰をついに痛めたようで、そのたまりにたまった腰痛が爆発して動けなくなってしまったのだ。

 もう70歳を過ぎるであろうこの女性を畑の脇にあるベンチに連れて行くと、ゆっくりとした動きでそのベンチに座る。


「リーズちゃんごめんね~」

「いいえ、それよりおばあちゃん。ちょうど何か私にできることないか探してたところなの。よかったら畑を手伝わせてもらえない?」

「ええ? でも貴族のご令嬢にそんなこと……」

「私はこの村でご厄介になってる。だから、この村の為に働きたい、教えてくれる?」


 セリアは少し考え込んだ後、そこまで言うのであればと言った様子でリーズの目を見つめる。


「わかったわ。やってみてくれるかしら? 土をちょうどおこしていたところだったの」

「おこす?」

「そこにある鍬を使って土を耕せるかい?」

「たがやす?」


 すると、鍬を自分のところに持って来るように依頼してその後耕す動作をしてみせる。

 リーズはその様子をじっとみて、今度は動きを真似てみるがなかなか不器用なリーズはうまくいかない。

 実際に土の上で始めてみるも、力がうまく入っておらずにただ撫でるだけ。

 見かねたセリアは腰を押さえて立ち上がると、一回しかやらないから見ててくれるかい?といって耕してみせる。

 なるほどと言った様子でうんうんとリーズは頷くと、今度は腰を曲げて足を広げ、そして大きく振りかぶって鍬を振り下ろす。


「わあ!」

「そうそう、それでいいんだよ」


 少し不格好な形ではあるが、なんとか耕すことができたリーズはまだまだ遠くまで広がる土地を一目見てふう、と息を吐く。


(これ、全部セリアおばあちゃんがやってたんだ)


 広大な土地を老人である女性一人でやっていたのだと知り、リーズは驚くも、畑の作業はもちろんこれにとどまらない。

 ようやく自分の周辺だけ耕せたのを見てセリアはそれでいいよと言った様子で合格を出す。

 そこで今度は畝を作るという作業を教える。


「そしてここに種を植えるんだ」

「なんで指のここくらいまでなの?」

「これはね、あまり深いと芽が地面からでなくなるからだよ」

「へえ~」


 今までこのようなことをしたことがないリーズは、土がついた手を気にせず頬をなでてしまう。


「ああ~ほら、綺麗な顔につくよ」

「え?」


 顔に土がついたのを女性は首に巻いていた布でふき取ってくれる。


「ありがとう、セリアおばあちゃん」


 まるで本当の祖母と孫のように笑いあう二人の声が畑に響き渡った。

 最後に水をやって一旦は完成という形で終了した。


「おばあちゃん」

「なんだい?」

「明日からも作業手伝ってもいい?」

「まあ、いいんかい? 嬉しいけどニコラにも話して許しを得てからだよ」

「は~い」


 報告を聞いた二コラは初めこそ驚き、そして怪我をするのではないかと心配したが、食事をしながら今日の話をしているうちに笑顔になり、翌日以降もリーズは畑の作業をしていいことになった。



「セリアおばあちゃ~ん」

「おはよう、今日もよろしくね~」

「うん!」



 リーズが少しずつ村の作業を手伝っていくことになる最初の作業だった。

 そして、彼女はまだ自身の本当の力を知らない──

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