第7話 騎士の妻として
桃のフレーバーティーをカップの半分ほど飲んだ頃、ビルが隣に、そしてビルの母親がリーズの向かいに座った。
「落ち着いたみたいだね」
「すみません、ご迷惑をおかけして……」
「いいんだよ、身体は大丈夫そうかい?」
「はい、もうだいぶ落ち着きました」
「私はキャシーだよ、ビルの母親。もし困ったことがあったらいつでも来な」
「ありがとうございます。嬉しいです。なんとお礼を言っていいか……」
「いいんだよ、記憶、ないんだろ?」
そのキャシーの言葉に思わず黙ってしまう。
ビルも先程までやんちゃに動き回っていたが、心配そうに見つめておとなしくしている。
「もし思い出したとしても、思い出さなくても、この村はあんたを受け入れるように決めたんだ。二コラが頼み込んでくることは滅多ないからね」
「二コラはどんな人なんですか?」
ある日森に放り出されていた自分をどんな人間かもわからないのに、助けてくれた人。
だからこそ彼のことを知りたいし、役に立ちたいと思っていた。
リーズの中では彼が辺境を守る騎士としか情報がない。
「二コラはね、私たちをいつも助けてくれる立派な騎士様だよ。森からの獣退治だけでなく、村の運営も手伝ってくれている」
「騎士とはどういったお仕事なのですか?」
「私たちも詳しくはわからないが、二コラは王都からの使者でね、三年前にここにやってきたんだ。まだ若いのに一人で馬に乗ってやってきてね」
当時を思い出すように紅茶を一口飲んで、語る。
「この辺境の地をまとめる長だけど、気取ってなくて優しくてね」
「二コラの兄ちゃんは俺に読み書きも教えてくれるしな!」
「そうなのよ、なかなか私も農業と市場への運び込みとかで手が離せないこともあってね。そんなとき隣の子のフランソワーズとビルの面倒を見てくれるんだよ」
「そうですか……」
騎士の本来の仕事は任地の統治であり、そこまで住民に密接にかかわることは少ないが、二コラは違った。
積極的に村の者の意見を聞き、取り入れて、助け助けられていた。
そんな仕事での二コラの様子を聞いたリーズの心にある気持ちが芽生えた。
(お役に立ちたい、二コラの)
それと同時に騎士の妻たるにはどうしたらいいのだろうか、そもそも妻とはどうしたいいのかわからなかった。
そんな戸惑いを見透かしたのか、キャシーが優しい微笑みで声をかける。
「自分のやれることをやればいいんだよ」
「え?」
「妻というのは難しいし、正解なんてないよ。二コラと相談してもいいし、自分で考えてもいい。でも彼のことを理解しようとして彼の癒しになってあげてほしいと私は思う」
「キャシーさん……」
「今すぐでなくていい。少しずつどうやって生きるか考えてごらん。いつでも相談に乗るし、手助けするからさ!」
リーズはキャシーと、そしてビルの顔を見ると頬を一筋の雫が伝う。
「リーズ?!」
「あ、なんだか安心してしまったのでしょうか。久々に泣いてしまったようです」
騎士の、二コラの妻であるためにはどうすればいいのか、彼女はこれから少しずつ向き合っていく──
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