第4話 娘のいなくなった邸宅~SIDEフルーリー伯爵家~
「どういうことですか、父上!!」
「どうもこうもない、捨てた」
「あの辺境の地の森に女の子一人捨てるなんてどうかしてます!!」
「もし帰りたかったら歩いてでも帰って来るだろう」
「あそこからどれだけ距離があると思っているのですか!」
「うるさいっ! お前は黙ってわしの言うことを聞けばいいんだ!」
「……」
リーズの兄であるブレスはあまりにも横暴に自分の妹を捨てた父に抗議していた。
だが、運が悪いことに仕事でブレスが父の所業に気づいたのは、リーズが捨てられた二日後だった。
そして所詮ただの伯爵令息にすぎないブレスはこの家の決定を覆すことなどできはしなかった。
「私がリーズを探しに行きます!」
「勝手にしろ」
そう言ってブレスは辺境の地へと馬車を走らせていた。
◇◆◇
馬車の中でブレスはポケットからネックレスを取り出すと、それをじっと見つめた。
「リーズ……」
そのネックレスはリーズが母親の形見として昔大事にしていたものだった。
だが、先月に階段で足を滑らせて頭を打ってからは記憶を失ってしまい、そのネックレスが母親の形見であることはおろか、母親のことも忘れてしまっているようだった。
ブレスは幼い頃リーズが生まれたときのことを思い出した──
『ブレス、あなたは今日からお兄ちゃんよ。この子を守るの』
『守る?』
『ええ、この子にはいつか私のネックレスをあげたいなって思ってるけど、かわりにあなたにはこれをあげる』
そう言って二人の母親は優しく微笑みながらブレスに指輪を一つあげた。
『指輪?』
『これはきっとあなたと、そしてここにいるリーズを守ってくれるわ。二人はいつも一緒に助け合って生きていくのよ』
ブレスは再びネックレスに視線を落とし、そして今度は自分のあのときはめてもらったときよりきつくなった指輪を見つめる。
日の光が入り込み、それは虹色のような不思議な輝きを放っている。
「母上、リーズは必ず私が守ります」
指輪のはまった手、そしてその手に握り締められたネックレスを祈るように額につける。
「どうか無事でいてくれ、リーズ」
馬車は急いで辺境の森へと向かっていった──
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