第5話 辺境の地で暮らすということ

 朝食をとった二人は食後のコーヒーを飲みながら、今後の生活とこの辺境の地について話していた。


「ここはいわゆる王都からは『辺境の地』と呼ばれるキュラディア村というところなんだ」

「きゅらでぃあ村?」

「ああ、数十人の小さな村でどの家庭もだいたい農業など自給自足で暮らしている」

「自分たちでものを作っているのですね?」

「ああ、だが積極的に協力し合っているから野菜を交換したり、みんなでお金を出し合って王都の市場に行って買い物をしたりする」

「なるほど」


 コーヒーを一口飲んで、再び二コラは語り始める。


「リーズにはゆっくりここでの生活に慣れてもらいたいなと思うから、最初はゆっくりお散歩とかしてごらん」

「村のみんなには今朝話してあるから」

「ありがとうございます」

「記憶がないことだけ話してある。そこからは自分で村のみんなに話したいと思ったら話してごらん」

「大丈夫でしょうか……」


 二コラはコップをそっとテーブルに置くと、リーズの手を握る。

 その手は彼の温かさなのか、それとも飲み物で暖まったからなのか、リーズにはとても嬉しくて優しいぬくもりだった。


「村のみんなは優しいよ。でももし不安があったらいつでも俺に話して? 一緒に出かけるようにするから」

「ええ、ありがとう、二コラ」


 そっとそのまま二人は見つめあって、目が離せなくなった。


「リーズ」

「二コラ……」



「おいっ!! 二コラの兄ちゃん!!」


 突如玄関のドアを開ける音が聞こえ、二人は気まずそうにばっと手を離して顔を背ける。

 そしてドアからの侵入者である小さな子供に二コラは話しかけた。


「ビル、いつもノックをしてから入りなさいと言っているだろう?」

「あ、わりぃ。でもさ、のっく?ってめんどくせーじゃん」

「この村ではいいが、失礼に値するからしっかりと少しずつするようにしなさい」

「は~い……って。お?!!! そこにいるのが今朝言ってた姉ちゃんか?!」

「ああ、リーズだよ」


 ビルは無邪気にテーブルに駆け寄って品定めをするようにリーズを上から下までなめるように見る。

 それを見た二コラはコツンとビルの頭に手を置いて注意する。


「こら、女性をそんな風に見ない」

「リーズ姉ちゃんって呼んでいいか?!」

「え、ええ」


 あまりの勢いにリーズは押されて少しきょとんとしてしまっている。

 二コラがビルの頭をそっと撫でながら彼女に紹介した。


「この子はビルといって隣の家の子だよ。子供はこの子ともう一人フランソワーズという女の子がいる。二人とも9歳だよ」

「そうなのね」


 リーズは椅子から立ち上がってビルの視線に合わせてしゃがむと、少しお辞儀をしながら挨拶をする。


「リーズと申します。まだ村には慣れてないけど、これからよろしくね」

「ああ、なんでも俺に聞いていいぜ!」

「頼もしいわ。ありがとう」


 すると、ビルは無邪気な顔をしてリーズと二コラに尋ねた。



「そういやお前ら夫婦なんだろ? 子供は?」



 子供のなんとも直接的かつ真っすぐな質問に、二コラは顔をひくつかせてまたひとつビルの頭にコツンを手を当てた──

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