4、喫茶店にて
休日、友達に誘われて喫茶店へ行った。
行きつけの店だ。少しレトロな雰囲気の飴色の柱や床がホッとするお店。私は水だし珈琲にバニラアイスがのっているコーヒーフロートを注文する。暑い日はこれに限る。友達はアイスロイヤルミルクティー。あれも美味しそうだなぁ。
そのつまみが私の怪談話なのはいただけないが……。
私がひととおり新しい勤め先での怪現象を話し終わると、友人はグラスに残った氷をカラカラと回しながらにやりと笑った。
「ふうん。怖いの苦手だって言ってたのにがんばってるんだ」
「それは、まあ憧れの仕事だし、期限があるから頑張れるというか……。人間の方が意地悪してきたり、ひどいことしてくる人はいるからねぇ」
転々としてきた職場の中で、嫌がらせをしてくる人は稀にいた。
命にかかわること以外には割と寛容な性格なのと有期雇用ということもあり、我慢すればいずれ終わると基本放っておく。
ただ、ある程度我慢の限界と言うものがあるので、嚙みつくとひどく驚かれる。やられるままの性格だと思っているのだろうか? こちとら、妹と何年も舌戦どころか殴り合いの喧嘩で場数を踏んでいるというのに、どうして舐められるんだろう。
私の寛容は、ひとえに最終的には口でも腕力でも陰謀でも反撃できる自信からきているというのに、それを分からないタチの悪い奴がいて困る。
私はいやなことを思い出して、がりがりと残った氷をかじった。
「お化けの方が無害でかわいい?」
「お化けとは戦えないからなぁ。無害だけど、音がするくらいだから無力ってわけでもなさそうだし……」
「じゃあ、塩でも撒いたら? 盛塩とかも効くんじゃない?」
「うーん……」
確かにすぐにできて効果がありそうな気はする。
けれど、そう言われて真っ先に思ったのは、『かわいそう』だった。
霊的な何かにかわいそうも何もないだろうと思い直したが、やはり塩で払うのは気が進まなかった。
今まで、私に嫌がらせをしてきた奴らになら塩をぶつけることにためらいはない。
けれどマリーちゃんに塩を撒くことはひどくためらいがある。
私は空っぽのグラスに残る水滴をこすりながら考えた。
「なんだろう……。怖いけど、不思議と怖くないんだよねぇ」
そう、怖いのだ。見えない何かがいる。
いや見えてるマリーちゃんかも知れない。
けれど、私に何か害をなそうとしているとは思えなかった。
意地悪をしてくる奴は空気で分かる。
図書室にも学校にもそういう濁った空気は感じられない。
逆にひどく神聖な気さえする。
それは私が本を図書室をそう思っているだけかもしれないが……。
友人は、追加の注文をするために店員さんに目配せした後に、私にも注文を促す。
もう少し、積もる話をしたいということだろう。
「大人になったんだね。ああ『先生』なのか?」
「からかわないでよ。恥ずかしいんだから……」
教師ではない。だから『先生』ではないでは通じない。
学校にいる大人である以上、『先生』のふりをしなければいけない。
お化けを怖がってなどいられないのだ。
私たちは、追加でホットコーヒーを頼んだ。
肝が冷える話をしすぎた。
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