【ノンフィク】図書室とマリーちゃんと私

天城らん

図書室とマリーちゃんと私

1、怖がりな私

 私は、子供の頃から怖い話というのが苦手だ。

 しかし、多くの小学生は怪談話が大好きだ。


 例にもれず私が小学生の頃の親友は、その手の話が大好きで心霊写真集なる本を3冊も所蔵していた。

 その中から、いつもとっておきの心霊写真を私によく見せてくれた。

 廃屋の前で立つ若者たちの写真。

 その背後にぼんやり見える白い影に興奮気味に声を上げ、『ほら見て、ここに霊がいるよ!』と容赦なくぐりぐりと指さす。


 私は涙目になりながら両手で目を覆う。

 それでも指の隙間から見える白い影は、なにか無念を訴える苦悶の表情にも見え、私の背中はぞくりとする。


 今まで本物の霊など見たことはない。

 霊感もきっとない。

 大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせても、怖いものは怖い。

 理屈ではないのだ。


 あるとき、こっくりさんに付き合わされた。放課後の夕陽が差す薄暗い教室に、鳥居とあいうえおと書かれた紙と十円玉が用意されていた。

 怖がりの私は絶体絶命だ。ぶるぶると震える手を強引につかまれ、十円玉に乗せられる。

 本当か嘘かわからないが、途中で手を離すと呪われると脅されればなすすべはない。

 見えない力で動く指が恐ろしく、涙目になりながら帰宅し、それから3日は頭まで布団をすっぽりかぶって震えながら寝た。



 今思えばこっくりさんなどは友人の自作自演で、私が過剰に怖がることが面白く、その場の演出にふさわしかったのだと分かる。

 けれど、大人になってもそのころのトラウマなのか、どうも作り話とわかっていても怪談話が怖い。

 誤ってその手の話をテレビで見てしまったが最後、大の大人が子供の頃と同じように布団をかぶり汗をかきながら眠るのだった。

 

  *


 大人になった私は、仕事を転々としている。と言っても、本意ではなく時代の流れだ。私が学校を卒業したころは大変な就職難で受けても受けても就職先は見つからず、派遣社員や契約社員という道しか選択肢がなかったからだ。

 有期雇用の仕事は賞与がない分稼ぎは少ないが、実家暮らしなので何とかやっていけた。


 私は社交的な性格ではないが、真面目なのと愛想だけは良かったので、たびたび変わる職場にもさほど苦労はしなかった。


 そうして数年過ごしたある雪の日。

 ちょうど契約期間が切れ、次の仕事の待機期間と言えば聞こえはいいが、無職の私は名実ともに実家でのすねかじりになり、節電しなければと大した暖房もつけずに、息をひそめて過ごしていた。


 将来に不安を覚えながらも成すすべなく布団にもぐり、ひたすら図書館の本を読み漁っていたときに、私に願ってもない仕事の話が舞い込んできた。


 小学校の司書を1年ほどやってみないかと言うものだった。確かに履歴書にはその資格が書いてある。表向きは事務補助だが、契約内容に図書室の管理も加えてくれるらしい。

 生徒の休み時間や必要に応じて、本の貸し出しや管理をし、目録を作る。春夏の6か月で1校。秋冬の6か月でもう1校。

 2校を回ってほしいとのことだった。期間も短く、時給もそれまでよりも少なかったが、図書室で働くのは夢だったため二つ返事で了承した。


 図書館司書は私のなりたい職業の一番だった。


 子供を相手にする仕事はしたことがなく正直、自信はなかったが折角とった司書の資格を利用しないまま終わりたくはなかった。


 公共図書館の司書の採用枠は極めて少ない。

 しかも毎年採用がある話ではない。


 せめて、臨時職員でもいいからと空きを待っていたがついぞ縁がなく泣く泣く諦めた仕事だ。


 降って湧いた僥倖ぎょうこうに、私の胸は期待で膨らんだ。


 この後、学校の怪談と対峙たいじすることになるとは知りもせず……。

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