柊の思い
まったく、やり辛い相手である。
俺は、柊の方を見ながら、走り出した。
柊も、それに合わせて走り出す。
基本的に、俺は柊に勝てるスペックを持っている。
単純にレベルの差と言うものが存在した。
だから、身体能力自体は俺が柊に負ける道理など無いのだ。
しかし…それはあくまでも、スペックの差だ。
…柊は、それを埋める為のキルギアを所持している。
自在に伸びる鎖、それを操る能力、そして刺した相手の機械細胞を吸収する能力。
この三つ、これが組み合わさるだけで、俺はこんなにもやり難い相手として認識してしまうのだ。
鎖を振り回してナイフを投げる。
俺の方に飛んでくるナイフを黒刀で弾くと共に俺は接近するが、即座に後ろを振り向いた。
弾いたナイフは勢いを付けながら俺の方へと向かっている。
例え、俺が黒刀で弾いても、ナイフの尻に着いた鎖を自在に動かす事で、ナイフの勢いを付けたまま、俺を突き刺そうとしていた。
だから、俺はスキルを使用した。
自分の行動速度を一瞬ではあるが上げる事の出来るスキルだ。
これによって、ゆるやかになった柊のナイフの柄に、俺は手を伸ばしてそれを掴む。
「あはッ、凄い、比良坂くん」
笑って俺の行動に対して素直に喜んだ柊。
俺がナイフを掴んだ事で、彼女の能力は殆ど封じたと言ったも良いだろうが。
「まるで、運命の糸みたい、この鎖。比良坂くんと私の二人だけ、決して切っても切れない中みたいで…ね?もっと、絡まろう?」
鎖が伸び出した。
そうして、俺の体にまとわりついていき、そして黒刀にも鎖が絡まる。
「ッ」
ナイフを握ったのは、失敗だったか。
磁力を発生させて鎖を解くか?いや、この絡まり方だったら、無理やり俺の肉体も引きずられてしまう。
決して解けない鎖の状態だ。
「ぐッ」
だと思えば、今度は鎖が俺の肉体に減り込んでいく。
柊が鎖の伸縮自在能力を使って、鎖を縮ませているのだろう。
「もう、行動は出来ないよ、比良坂くん。私と一緒に、永遠を過ごそう?ずっと、私だけを見てて…」
ゆっくりと柊が俺の方に近づいてきた。
これほど女に思われちゃ男冥利に尽きるって話だろうが、生憎だ。
俺は、縛られる為に生まれたわけじゃない。
「形成」
更にスキルを使用する。
大気に存在するとされるナノマシンを集合させて、ナイフを形成する。
俺は刀から磁力を発生させると、ナイフを弾かせて柊に向けて射出する。
「あ」
迫るナイフに、柊は鎖を使って弾いた。
流石の一撃に、柊は弾いたナイフの方に視線を動かして、再び俺の方を見て笑う。
「あぶない、比良坂くん、でも、弾いちゃうから意味ないよ」
「弾いても意味無いからそれを使ってんだよ」
俺の言葉が理解できなかったのか、柊が首を傾げた時。
背中に走る痛みに、彼女は膝を落とした。
「磁力操作してんだ。ナイフが一回弾かれた程度で磁力が切れるワケ無いだろ」
心臓の近く、肺辺りを突き刺された彼女は、苦しみの表情を浮かべながら、鎖を解いていった。
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