女子生徒の暴走
そうして俺は生徒共を使って周囲の拠点を固める事にした。
「うわ、朽見さんだ」「尻尾、耳も生えてる」「おい近づくなよ」
と、階段付近で待機させていた千幸を見ながら生徒共は狼狽えていた。
俺は千幸の方に近づいて首の方を腕で抱いた。
「千幸はゾンビで、今は狼になってる。だからって近づくなよ、あと何か悪さしようと思ったらそん時は俺がテメェらを殺すからな」
別にお前らの命なんてどうでもいい。
ただ俺は、俺の大事なもんだけが生きてたらそれで良いんだ。
「あの、比良坂さん、ゾンビが…」
廊下にはゾンビが多くうろついている。
俺は頷いて、黒色の刀身を軽く振るいながら歩き出す。
「退け」
そう言いながら俺は刀を使ってゾンビを斬り殺す。
数は三体程、この学校は全校生徒が六百名程だから、俺が今まで殺した分を合わせたら…まあ大体七十体くらいか?取り合えずは校舎に居るゾンビは全員殺す。
そして俺個人のレベルを上げて強くなる。
「ゾンビは殺したぞ、さっさと教室から机持って階段塞いでおけ」
俺がそう言うと、男子生徒たちは教室から机を取り出して階段を塞いでいく。
これで、ゾンビたちが上に来る事は無いだろう。
「全員で十名くらいか、男共は…よし、半分は廊下で死んでるゾンビを窓から捨てて置け、お前らの命なんざどうでも良いが、一応は頭を潰して投げ捨てろよ」
死体に埋もれたゾンビが動き出す可能性もあるからな。
「それと、もう半分は俺と来い、下に降りて刀の鞘を探す」
「え、ちょ、なんでそんなッ」
一人が反論しようとしたので、俺はそいつの胸倉を掴んだ。
此処で殺してやって他の奴らの見せしめにしてやっても良いが、我慢する。
「俺がゾンビを殺してやる、だがタダでやるつもりもねぇ。鞘を探すのがお前らの仕事だ、じゃなけりゃ、別に俺はお前らを置いて学校から出て行っても良いんだぞ?」
「ぐ、うッ」
俺と言う存在。
五郎田を殺せる様な強い存在だ。
更に、ゾンビに噛まれても同じゾンビにならないと言う特別。
俺を逃したらどうなるかくらいは分かるだろう。
「俺が優しい内に行動しろよ」
胸倉を離して俺は千幸を俵の様に担ぐ。
「ゾンビが出たら大声で叫べ、俺が殺してやる」
窓の外に出ると共に、俺は飛び降りる。
此処は三階だが、ゾンビの死体によって衝撃を緩和した。
「さあて、まずは一階から殺していくか」
窓ガラスを割って俺は廊下へと出る。
ゴロゴロと、ゾンビの群れが俺に顔を向けた。
「経験値稼ぎの為に死んでくれ」
俺は、廊下に居るゾンビ全員にそう言い放ち、刀を使って殺していった。
一階を制圧する前に大声が聞こえて来たのでその声の方へ向かう。
二階、男子生徒が階段の上から叫んでいたので、先に二階から掃除を行う。
取り合えず斬り殺して再び一階からゾンビ清掃。
大体一時間くらいで、大声で呼ばれたのが五回。
「叫び過ぎだテメェら!」
「理不尽だ」「あんたが呼べってッ」「いやはいすいませんでしたッ」「不良怖い」
校舎は大体掃除した所だが…今まで殺した分も合わせて二百体もいってないぞ。
残りは全員逃げたのか?と思った時、俺は体育館を思い出す。
あそこなら生徒がいるかも知れない、ゾンビが襲撃してきた時に全校集会とかあったしな。
そう思い俺は校舎から離れて体育館へと向かう。
校庭の方を見ると、大柄なミノタウロスが正門から入って来るゾンビを片手で潰していた。
「あれ倒せたら…」
経験値半端ないだろうなぁ。
いずれはあの化け物を倒せるくらいまでには強くなりたいものだ。
「体育館、急ぐか」
そうして俺は体育館へと向かった。
中を開けた時、やはりと言うべきか、俺の予想通り、体育館の中には、多くのゾンビたちがうろつていた。
「経験値だ、よっしゃあ!」
俺は迫り来るゾンビを斬っては殺し、裂いては潰しを繰り返す。
大勢のゾンビ、その身体能力は常人よりも低いが、それでも大勢を相手にすると流石にこちらも骨が折れる事だった。
だが、俺の戦法は実に理にかなったものだ。
入り口を開けて其処からゾンビを呼び寄せる。
そうする事で入り口は一方しかないので、ゾンビに囲まれる事なく安全に倒す事が出来る。
しかし、入り口付近でゾンビの死体だけが積み重なっていくので、それを片付けるのが面倒だったが、体育館に存在したゾンビたちは粗方掃除したと言っても良かった。
ゾンビを一掃した所で、俺は改めてレベルを確認する。
【LEVELUP.+8:LV22】
【筋肉強化率/111.23%上昇】【骨格強化率/98.82%上昇】
【神経強化率/132.01%上昇】【皮膚強化率/89.51%上昇】
【器官強化率/53.31%上昇】【脳髄強化率/18.12%上昇】
LV【22】
【肉体情報】
筋肉強化率/324.78%→436.01%
骨格強化率/313.74%→412.56%
神経強化率/317.52%→449.53%
皮膚強化率/269.48%→358.99%
器官強化率/302.07%→355.08%
脳髄強化率/181.07%→199.19%
【取得因子】
狼の因子/11.78%
ついに400台を超えた…が、それでもこの黒刀を扱うにはステータスが足りない。
うーん…どうするか、他にゾンビは居ないだろうか、と、俺は思った時だった。
「大変だ!比良坂さんッ!」
男子生徒の一人がそう言って俺の方に駆け寄って来る。
俺は黒刀を振り払って血を拭うと共に、そいつに目を向ける。
「なんだよ、またか?」
また、ゾンビが出たとか言って喧噪してんのかよ。
正直今日は疲れたから、今日は休みだ、屋上に戻って一休みしてえんだけどな。
「秋間さんがッ他の生徒たちをッ」
「あ?」
秋間さんって誰だよ。
あー、もしかして五郎田に襲われた女子生徒の一人か?
「それで?」
「いいから早く!他の女子生徒を殺したんだよ!!」
おー…穏やかじゃねぇ話だな。
「じゃあ、取り合えず俺は先に行っておくからな、後から来いよ」
俺は地面を蹴ると共に走り出す。
千幸は俺を抱き締めて離さない様にしていた。
階段を使うのは面倒だな、壁から行くか。
そう思った俺は、壁を蹴って、窓や排水管と言ったでっぱりを掴んでは上へと飛び移っていく。
流石常人の四倍の力、その分質量は俺と千幸を合わせて二人分だから動くのも楽で良い。
そうして五分も掛からず、屋上へと到着した。
屋上では、悲鳴が聞こえていた。
その中で血を流して倒れている女子生徒や、女教師の姿があった。
学生服を破かれて、露出の高い恰好をしている女子生徒の手には、カッターナイフが握られている。
三階付近で作業をしていた男子生徒たちも、騒ぎを聞きつけてやって来たらしい。
「おい、どういう状況だ」
俺がそう言うと共に、近くに居た柊が俺に飛びついてきた。
どうやら恐ろしいものを見たらしいが、俺は慰める気も無く男子生徒の方に目を向ける。
「…名古先生と口論してたんだ、秋間さん、その後、カッターナイフで、名古先生の首を切って…」
口論、一体何が発端でそうなったのかは知らないしどうでもいいが…面倒事を押し付けないで欲しいと俺は思った。
「それで止めに入った女子生徒も切られたってワケか?…仕方ねぇな」
俺は柊を引き剥がし、千幸に待てと命令した状態で、秋間とか言う女子生徒の方へと向かっていく。
「おい、世が世だから人を殺しても文句は言えねぇが、面倒事は御免だ、その手に持つモン捨ててこっちにこい」
犠牲になったのは女教師と、女子生徒の一人か。
秋間の近くに、血が噴水の様に飛び散る女子生徒の姿を、秋間と言う女は呆然と立ち尽くしながら見ていた。
「二度は言わねぇぞ」
カッターナイフを捨てないのならこのまま斬り殺すだけだ。
そう思ったが、秋間は即座に手からナイフを離した。
聞き分けが良い、いや、冷静になったのか?俺が刀を握る力を緩めた時。
秋間は地面に座った、そして、女子生徒の死体に顔を近づけている。
「…?」
ぐちゃぐちゃと、咀嚼音が聞こえ始めた。
その時点で俺は、即座にこの女子生徒を斬ると言う事に決めた。
「ゾンビかよ、何処で感染しやがった」
俺が秋間の方に近づいて斬り殺そうとした時。
秋間は、俺の方に顔を向けた。
頭部には、普通は目が二つだけ付いている筈だ。
だが…秋間の目には、大小含めて、八つの目が備わっていた。
「あ?」
これは、ゾンビとは違うな。
一瞬戸惑った俺、その一瞬を以て、秋間の背中から、黒い毛が生えた、竹の様に細長いものが噴出する。
「…おい、さっさと鞘を探してこい」
俺は、そう男子生徒たちに告げると共に。
肥大化していく秋間だった化物が、俺に向かって突進して来た。
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