屋上の支配者からの戦利品
屋上へと出ると、其処は煮詰まった地獄があった。
血が周囲に飛び散っている。手首をフェンスに縛られている生徒の姿。
女子生徒は両手を結ばれて衣服ば乱されていた。
近くには頭から血を流して蹲っている生徒も居る。
それはどうやら、ゾンビではないらしい、人間だ。
人間のまま、バットで思い切り頭を殴られた様に見えた。
そして屋上の一番奥、見晴らしが良い屋上の端には、沢山の段ボールを積んだ、ノースリーブのシャツを着込んだゴリラの様な教師が居た。
「あぁ、五郎田か」
悪名高い体育教師、五郎田。
蔑称してクソゴリラ。
在籍している生徒に手を出したり暴力に近いシゴキをしている事で有名だ。
なんでも有名な柔道経験者であるらしいが、そこらへんはどうでもいい。
とにかく、コイツのお陰で退学させられた生徒は多い。
「ゴロツキが生きてやがる、俺の城に何をしに来た?」
「此処が城か?王様にしちゃあチンケな城だな」
俺が軽口を叩くと、大して怒りを浮かばせず、大きく笑った。
「おい、さっさと殺せ、邪魔だコイツは」
五郎田がそう言うと、バットやモップを持った生徒たちが俺の方に近づいて来る。
どうやら、恐怖に支配されたらしい。
五郎田の持ち前の筋力で殴られて、痛みによって支配でもされているのだろう。
「あと、後ろの柊は殺すなよ、追放したがまだ生きていたとは驚いたが、これで外の怖さが分かっただろう?これからは俺が守ってやる、その代わり俺に奉仕をしろ」
と、柊に向かって言う。
柊は五郎田が怖いのか俺の後ろで隠れっぱなしだった。
「うおおお!!」
俺の顔面を叩き潰そうと、男子生徒がバットを振り上げた時、俺はそのバットを片手で掴んだ。
視神経も反応速度も、普通の人間よりも三倍なのだから、相手の攻撃を見て行動をとる事など簡単だった。
バットを簡単に奪い取る。
男子生徒はよろけて、床に倒れた。
「何をしている、バカがァ!!」
五郎田が叫ぶ。
すいません、と謝る生徒に、俺は取り合えずバットを振り上げて男子生徒の頭を一撃で粉砕した。
周囲に血が飛び散るが、一撃で殺す事が出来たので、良かった。
これによって、他の生徒たちの行動は止まる。
俺が、他の人間とは違って、人を殺す事に戸惑いを見せる倫理観が無い事を理解しただろう。
俺は軽くバットを振り回して、五郎田の方へと近づく。
「腰抜けどもが、後で指導だな」
五郎田は大して恐怖を見せる事無く俺に近づいていく。
その手には、一振りの刀が握り締められていた。
…刀?おい、それ何処で手に入れたんだよ。
「ゾンビを殺したら出て来た」
ゾンビを倒したら?ゲームとかである、敵キャラを倒したらドロップするって感じなのか?
とにかく、日本刀か、あれを受けたら、流石に強化された体でも、簡単に切れそうだな。
俺は、相手の行動を見た上で、バットを捨てる。
そして懐からバタフライナイフを取り出した。
「流石不良、そんなものは持っているか」
挑発でもしているのか俺は何も言わない。
ジリジリと近づいて、教師の元に接近する。
俺を殺そうとしてきた以上、この教師をそのまま野放しにする気は無い。
俺は自分の火の粉を払う為に、この教師を殺すのだ。
「ちぇえぁあああああ!!」
大声を上げると共に、教師が俺に向けて刀を振り落としてくる。
当たれば胴体を縦に切り裂いてしまう一撃を、俺は受ける事無く、体を動かして回避する。
地面に刀が当たると、刀の切っ先が地面に減り込んだ。
成程、かなり切れ味が良いらしい、床に当たったのに、簡単に抜いている。
「武器は良いけど、使う相手がなぁ…」
つい言葉にして漏らすと、その言葉に反感したらしい。
五郎田は顔を真っ赤にして刀を振り回す。
俺は後退して攻撃を回避する。
基本的に、攻撃する以上はその攻撃の軌道に居なければ怖いものではない。
これは、俺の筋力強化と、神経強化によって相手の攻撃を見て回避出来るからこそ出来る所業だ。
流石に、生身で刀を回避しろと言われても、出来る筈が無い。
一瞬の隙を突いて、俺は五郎田の方へと動いて、ナイフを胸元に突き立てる。
「うごぉ」
ナイフを強く突き刺して、柄ごと胸に深く突き刺した。
そうして、五郎田は苦しみ出して、刀を手から離した。
そして俺は、五郎田が手から離した刀を握ると、それを五郎田の首に添える。
狙いを付けて、俺は五郎田の首に向けて刀を振ると、五郎田の首が簡単に切断された。
「…うわ、切れ味良すぎだろ」
俺は思わず、刀に関心してしまった。
そして後から、五郎田を殺した事に対する感想を思い浮かべる。
「前に指導っつって殴ったの、これでチャラにしときますよ」
刀を振って、俺は刃に付着した血を薙ぎ払った。
これがゾンビから出て来たらしいが…しかし本当なのだろうか。
「おい」
五郎田が死んで放心している男子生徒に声を掛ける。
「え、あ、はい?」
「これ、本当にゾンビから出て来たのか?」
刀を男子生徒に見せて聞く。
生徒はその刀を見ただけで目を細めた、刀が怖いのだろう。
「えぇ、と。俺は見てないけど、見たって言う女子生徒は居たよ…えっと、死んだけど」
ふぅん。
見たって言う奴がいるのなら本当なのか。
じゃあ、ゾンビを倒したら稀にドロップするって感じか。
俺、結構ゾンビを倒したけど、そんな事は無かった、と言う事は、かなりレアって事か?
刀を持ち上げて目を細める。
すると、目を細めた視界に、刀を認識すると共に情報が視界内へと出て来た。
【日本刀型:『NoName』】
【必要能力値】
筋肉強化率/500.00%
骨格強化率/500.00%
神経強化率/500.00%
皮膚強化率/100.00%
器官強化率/100.00%
【必要容量】
脳髄強化率/50.00%
【特殊性能】
耐久性能向上/Grade.C
切断能力向上/Grade.C
機械細胞付加/Grade.C
磁力操作能力/Grade.B
磁力付加能力/Grade.B
【使用者による接続が登録されていません、兵器格納装置にて登録をお願いします】
【兵器格納装置から距離が離れています、兵器格納装置から距離が離れています】
鑑定したのか?今、俺の視界に出て来たのは、刀の持つ能力の情報?
一番上の必要能力値って言うのは…この武器を扱う為に必要な能力値って事か。
じゃあ、この刀を扱うには、最低でも人五人分の能力値が必要になるって事か。
何故か脳髄強化率だけが別項目なのは気になるな。必要容量?
しかし、特殊性能の方を確認する。
機械細胞付加って言うのがよく分からないが、磁力操作能力と磁力付加能力、この二つから察するに、この刀は磁力を操る事が出来るって感じか。
ただ…使用者による接続が登録されてませんって事は、結局、この武器を本人登録しない限りは使えないって事なんだよな?
兵器格納装置ってなんだよ。この刀を格納するのか?…ん?鞘ってワケか?
そういえばこれ、抜き身のままだったしな、何処かに落としてるのかも知れねぇな。
「…いよいよ、ゲームじみて来たな」
まあ、ナノマシンの暴走によってゾンビが出てきたり、モンスターが現れたりするので、今更と言えば今更な事なのだろうが…。
この武器の居合奔り、と言う名前からして、鞘もあるのではないのだろうかと、俺は周囲を探す。
段ボールに手を掛けた時、俺はふと、フェンスの先を見た。
そういえば、俺はこの屋上から外を眺めようと思ってたんだっけか。
外を見た時、俺の想像通りの世界が広がっていた。
建物の崩壊、火事によって黒い煙が空に向かって昇っている。
空には飛翔する怪物の姿があり、沢山の血が道路に濡れている。
俺が想像する中で、その光景こそが地獄だと思える、それ程の凄惨さが広がっていた。
「…惨いな」
俺は思わずそう呟いた。
これならば、外に出らずにずっとここで過ごしたいと思ってしまう。
「あの…」
すると俺に話しかけてくる生徒が居たので俺は振り向いた。
「あの、これからボクたち、どうすれば良いですか?」
と、言われて俺は周囲を見回す。
五郎田の支配が終わったが、こちらもこちらで悲惨なものだ。
五郎田が死んだ事で五郎田の性被害を受けた生徒たちは泣いているし、俺を見て怯えている奴も居る。
「んなもん知るかよ、勝手に自由にしてろ」
俺は面倒を見る気なんてない。
此処から出ていくつもりもあったが、しばらくこの学校で様子でも見ておくか。
「自由って、どうすれば…」
「知らねぇって…いや」
こいつらも使いようによっては使えるか?
「…じゃあ、まず三階に居る奴らの掃除、死体を取り合えず窓から捨てて、階段でも封鎖しとけ」
ゾンビが急に現れない様に、命令する。
しばらくは学校で籠城して、時期を見て外に出る事にしよう。
「いや、でもゾンビとか出たら…」
「それは俺が殺す、どうせ噛まれても死なねぇしな」
「え、嘘ッ!?」
本当だっての。
まあ、ゾンビを倒して経験値を稼ぐ、そんで、刀と同様に武器が出てくるのか調べよう。
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