兵器格納装置
唐突に変化した秋間の姿に、生徒たちは息を呑んで、そして大きく声を荒げた。
「うわあ!」「秋間さんが変になった」「でかい、蜘蛛だァ!!」「きゃああ!!」
そう男子生徒が叫ぶと共に、一番近くに居た俺の方へと向かって突進してくる。
俺は刀を振って秋間の体に突き刺した、部位は頭部であり、脳天を突いた筈だった。
それでも突進は変わらず、上半身を振り回していき、俺は体が宙に浮かんでフェンスを飛び越える。
「が、クソッ!」
四階くらいの場所から落とされる、これは流石に身体能力が強化された俺でも無事で済ませる事が出来るかどうかッ。
そう思っていた矢先、俺は反撃は来ないと思っていた。
だが、蜘蛛と化した秋間は、屋上から跳んで、俺の方へと接近してくる。
空中戦で俺を殺そうとしてやがる、上等だ。
「逆にクッションにしてやるよッ」
俺は刀を大きく振って、蜘蛛と化した秋間を切り裂こうとしたが、秋間の口から液体が飛んできた。
それは白い痰だった。俺の刀に付着するが、関係ない、切り裂く。
だが、白い痰が刀身の刃に絡まっていて、刀が秋間の体を裂くどころか、刀身が秋間に引っ付いた。
粘性が強い、俺はとにかく刀を離さない様にしながら秋間を睨んだ時。
落下が終わり、秋間が着地すると、俺を引き摺りながら疾走する。
第一関節だけでも二メートルはありそうな、背中から生える脚が動き出す。
「あッ!?」
刀を無理に引っ張って、白い痰がひび割れた。
どうやら、空気や風で乾燥させると、粘性のある体液は硬質化するらしい。
俺が刀を引っ張ると、刀身が抜ける。
そして地面に叩きつけられた俺は、ゆっくりと体を上げた。
「…おいおい、嫌味しか出てこねぇよ」
土煙が払われる。俺が着地した場所は、校庭だった。
俺が視線を向けた先には怪物が二体。
「ミノタウロスにアリアドネ…神話の再現かよ、クソが」
校庭に立つ俺は刀を握り締めたまま、二体の怪物に目を向ける。
正門前で雑魚ゾンビを潰していたミノタウロスは俺の方に向かって来る。
その手には、何処で手に入れたのか、一台の車を鷲掴みにして動いていた。
「…アラクネだっけか?まあ、どっちでもいいか」
俺は黒刀を握り締めながら接近する。
どうせ、このモンスター共と戦いはするつもりだ。
もっと早く準備しておけば良かったが、こうなった以上は仕方が無い。
「殺してやるよ、怪物風情が、令和の不良舐めんじゃねぇぞッ!!」
意味の無い啖呵を切ると共に俺は二体の怪物と戦闘を繰り広げるのだった。
ミノタウロス。
流石に巨体だ。
人間の倍以上の大きさ。
唯一の救いは挙動の遅さ。
武器として車を叩き付けるが、その隙を狙って刀で斬り付けるが。
「ちィ!」
刀身で足を切っても、皮一枚、草で指を切った程度しか血が出て来ない。
おまけに常に俺の背後へと移動してくるアリアドネ。
一瞬でも集中を切っちまったら、アリアドネからは白い痰を吐きつけてくる。
それに触れちまったら、接着剤の様に固定されてしまう。
周囲を見回す。
何か使えるものが無いかを見て、俺は校舎の方を見た。
屋上からは、男子生徒や女子生徒がこっちを見ていた。
何話してやがんだアイツら…耳を澄ませて聞いてみる。
「あれもう死んだでしょ…」「バリケード作らないと…」「どうするこの朽見さん」「形見だしなぁ…」
死んでねえよ。
「おいテメェらさっさと鞘見つけて来いやァ!!」
現状、この武器だけが頼りだ。
兵器格納装置…、鞘が無いと、この刀の能力を存分に発揮する事が出来ない。
「あの、私場所知ってます」
女子生徒の一人が男子生徒たちに言い出した。
「五郎田先生が倒したゾンビから出て来たの、見てたから…」
マジかよ。
急いで取って来てくれ、俺がそう言おうとしたら、ミノタウロスが俺の傍から離れだす。
「あ?」
校門近くには、大勢のゾンビたちが蠢いていた。
どうやら、ゾンビたちを駆除しようとしているらしい。
が、そう思った俺の認識は甘かった。
ゾンビの頭部を無理やり掴むミノタウロスは、それを構えた状態で、俺に向けてゾンビを投げて来やがった。
「うおッ!」
回避をしてゾンビから逃れる。
ゾンビは地面に叩きつけられて体をグチャグチャにさせていた。
「クソッ、危ねぇ、コイツッ!!」
自分の攻撃が当たらないから、遠距離でゾンビを潰して散弾見たいに投げ飛ばしてきやがったぞッ。
「ッ」
クソ、地面見て無かった。
アリアドネが吐いた白い痰に踏んじまった!
クソ、どうする。
ミノタウロスがゾンビを潰して投げて来やがった。
「クソが…舐めんなッ!」
俺は刀を自分の足に向けると、脹脛の部分から先を勢い良く切った。
俺の膂力と合わさった刀身は切れ味が良く、一太刀で俺の足を切断すると共に、俺は地面を蹴ってその場から退避する。
ゾンビの肉片が俺の居た所へと飛び散った。
「ああああッ、ぎッ、イデッ、えッ!」
片足切断して危機的状況は免れたが…戦況が一気に引っ繰り返った気分だ。
幸いにも、ナノマシンって奴が働いてんのか、痛みは最初だけで、傷口もすぐに塞がった。
だけど、片足でやり合うなんざ、難しいにも程があるだろ。
だからって、負ける気は無い、俺が死んだら誰が千幸の面倒を見るってんだよ。
刀を杖にして立ち上がる、気力を振り絞って声を張り上げる。
「どォした、チャンスだぞ化物共、片足のままで相手してやっから掛かって来いやあ!!」
虚勢を張ったと同時。
背後から声が聞こえて来た。
「駄目だってー!」「戻ってこーい!!」「おおおおい!!」
男や、女どもの声。
どうやら複数集まって、校舎から外に出たらしい。
なんだ、鞘でも見つけたのか、と俺が思って振り返ると。
校舎から、校庭へと入って来る一人の少女の姿があった。
「ば、オイ!!何してんだ柊ィ!!」
漆黒の鞘を握り締めながら、俺の元へとやってくる、柊の姿。
近くに居たアリアドネが柊を確認すると、目標を俺から柊に代えて接近すると、そのまま、彼女に向けて先端の細い脚で彼女を払った。
その攻撃一つで、彼女の腹部が切れて、地面に転がる。
俺は、片足で走って、柊の元に行く、体を持ち上げて、俺は彼女の腹部に手を添えた。
「馬鹿かお前、急に出てきやがって、これ、死ぬだろうがッ」
俺がそう叫ぶと、柊は俺に、鞘を渡してくる。
ずっと大事そうに握り締めていた鞘を、俺は受け取ると、彼女は微笑んだ。
「だいじな、もの、でしょお?」
痛みなど無いのか、彼女は舌足らずな口調で言った。
「自分の命の方が大事だろうが…オイ!」
俺は叫んで、男どもを呼ぼうとしたら、その必要は無かった。
男子生徒たちは、柊の元に走っていくと、彼女を抱き上げている。
「お、俺が悪いんだ、柊さんが、鞘を持ちたいって言ったから」「いいから逃げよう、後は、どうにかしてくれるんだよね、比良坂くんッ」「柊さんは俺たちがなんとかするから、頼むよ、お願いだッ」
人頼みをしながら男共はその場から離れだす。
生身の癖に根性あるじゃねえか、野郎共。
「当り前だ」
そう呟くと共に前を向く、化物が二体俺を見ている。
俺は鞘を強く握り締める。
指先が、鞘に触れると、漆黒の鞘から青白い線が浮かび出した。
【兵器格納装置・使用者を登録しました】
【使用情報・戦闘方法を使用者に供給】
脳に流れ込んでくる情報。
刀身はナノマシンで形成されている。
ゾンビの肉体の大半はナノマシンであり、数十兆にも及ぶナノマシンの情報媒体の中には宿主の記憶から情報を引き出し細胞置換を行う特殊個体も存在する。
ゾンビの機能停止後、細胞置換と言うナノマシンの行動原理は機能停止によって不可能と判断され、行動原理は第二行動原理へと移行。
数十兆のナノマシンの殆どが細胞置換と言う行動原理である為に、細胞置換が不可能であれば機能が停止されてしまう。だが特殊個体は細胞置換ではなく、情報の再現と言う行動原理を持つために、必然的に情報再現を行う様になる。
そうして新しい行動原理を与えられたナノマシンは情報再現を行う様になり、ゾンビの肉体に蔓延したナノマシンが形状変化を起こす。
それが、ゾンビから武器がドロップされる方法であるらしい。
長ったらしいが、要するに『第一プランと第二プランがあり、第一プランが実行不可能となったために第二プランを行う』と言う認識で良い。
【使用者に武器命名の権利が発生します】
「要らねぇよ…そんな事してる場合じゃねえんだからな」
大方の情報を流し込まれて、頭痛がするが問題ない。
規定の能力値を満たす事は出来なかったが、出力が低下するだけで、使用者であれば使役は可能であるらしい。
だから俺は、掌で強く刀の柄を握り締めると、目に映る眩い雷が周囲に飛び散った。
「ハンデはやった、これで倒せなかったのが運の尽きだな」
脳内に流れてくる武器の運用方法。
俺は刀を構えて、鞘を杖替わりに歩き出す。
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